守護神、番人、最後の砦…

これらは時折、サッカーのゴールキーパーにつけられる別名です。

基本的には一定のエリアから動くことなく、一人で味方のゴールを守るキーパーはスポーツの中でも特殊なポジションかもしれません。

そんなキーパーは、一度ゴール前に攻め寄られれば、様々な状況、情報をもとに素早く判断を下す能力が求められます。

そしてその能力は、他の選手たちとは一線を画すものであったようです。

今回、自身もプロのゴールキーパーとして活躍した経歴があり、元アイルランド代表のゴールキーパーの父をもつアイルランド・ダブリンシティ大学の心理学部の研究者、マイケル・クイン氏ら研究チームは、映像と音を用いた実験で、プロのゴールキーパーが他の選手や一般の人とは感覚を認識する能力が異なることを明らかにしました。

具体的にどのような部分が他の人々と異なるのでしょうか。

今回の研究の詳細は、2023年10月9日付けで『Current Biology』に掲載されています。

ゴールキーパーは瞬時に多くの決断をする必要がある

サッカーにおけるゴールキーパーは、ペナルティエリアと呼ばれるエリア内でのみ手を使うことが許されており、基本的には試合中のほとんどの時間をペナルティエリア内で過ごし、味方ゴールを守っています。

味方が攻めている間は暇なのでは……、そんなことを思ってしまう人もいるかもしれませんが、ゴールキーパーはチームの中でも一番後ろにいるので、チーム全体の動きを一番よく見ることができます。

このため、ポジションのおかしい味方がいた時には修正を指示したりなど、敵に攻められていないときにも常にチーム全体を把握する独自の役割を持っています。

そんなゴールキーパーには、攻撃を防ぐ時や素早く攻撃に転じる時など、瞬時に決断を下さなければいけない場面が多々があります。

そこで今回、研究チームは、「ゴールキーパーは他のサッカー選手と違い、不完全な情報に基づき、瞬時に多くの決断をする必要があるため、異なる感覚の情報をうまく組み合わせる能力が高いのではないか」という仮説を立て、ある実験を行ったのです。

また、今回研究にあたったマイケル・クイン氏自身がプロのゴールキーパーとして活躍した時の経験を通じて、ゴールキーパーが独特な視点で世界を見ていることを感じてきたことも、この感覚を科学的に調査する要因となりました。

これまでゴールキーパーと他の選手の間の生理学的特徴や試合中のパフォーマンスの違いに多くの研究が行われてきましたが、ゴールキーパーの感覚や認知の違いについては、あまり研究が行なわれてこなかったのです。

ゴールキーパーは瞬時に多くの判断をする必要があります
Credit:canva