「家とは心があるところ(Home is where the heart is)」という言葉があります。
大切な家族や友人との思い出がある、こころの居場所が故郷になるという意味の言葉です。
鳥たちにとっても、大切なのは場所そのものではなく、仲間との絆なのかもしれません。
米国カリフォルニア大学サンタクルーズ樹木園(UC Santa Cruz Arboretum)で行われた研究は、キガシラシトド(Golden-crowned Sparrow:黄頭鵐)が特定の越冬地に戻るのは、そこに豊富な食物があるからだけではなく、親しい仲間との絆が影響している可能性を示しています。
「以前過ごした越冬地に戻り、お馴染みの仲間と過ごすことは、キガシラシトドにとって大切なことのようです」と、研究の筆頭著者マドセン氏(A. E. Madsen)は述べています。
研究の詳細は、2023年7月31日付の『PNAS』誌に掲載されています。
そこに戻る理由は「仲間愛」か「場所愛」か?
キガシラシトド(Golden-crowned sparrow、黄頭鵐、学名:Zonotrichia atricapilla)は、スズメ目ホオジロ科に分類される鳥類の一種です。
頭に鮮やかな黄色の冠模様があるのが特徴で、ピッチが下がっていく3音の鳴き声が知られています。
彼らは繁殖期にアラスカやカナダ北部で過ごし、秋になると太平洋沿岸を何千キロも南下して、前シーズンに過ごした場所から数十メートル程度しか離れていない場所に戻り、群れをつくります。
彼らのお気に入りの越冬地に、米国カリフォルニア大学サンタクルーズの植物園があります。この植物園は研究者にとっては絶好の観測地であり、10年以上にわたりキガシラシトドの観測とデータ収集が行われてきました。
研究者らは長期観測から、キガシラシトドの群れには複雑で高度な社会構造が存在することを発見しました。
まず、群れでのキガシラシトドのつながりは血縁関係とは無関係であることがわかっています。これは、単に家族であること以上のなんらかの理由によりつながっている可能性があること示唆します。
また、キガシラシトドの群れのメンバーが時とともに変わる一方で、ある一部のスズメは何年にもわたって同じグループで過ごすこともわかっています。群れとの結びつきは、個体によって強い場合もあれば、弱い場合もあるということです。
これに加え、キガシラシトドが「以前過ごした特定の場所」に、かなり正確に戻ってくることも、研究者の興味の対象でした。
繁殖期は、より多くの資源がある場所に戻る必要があるため、特定の場所に集まりがちですが、越冬期間は安全に過ごせれば良いだけなので、特定の場所に戻る必要性は高くありません。
これらのことから研究者らは、鳥たちが「特定の場所」に戻るのは、単に生存のためだけでなく、他の理由があるのではないかと考えました。
「彼らの行動に何らかの意図があるのか? 大事にしたい何かが存在するのか?
毎年戻りたくなるような良い場所だからなのか?それとも、仲間や群れの仲間と過ごすために戻ってくるのだろうか?」
そこで研究者らは、キガシラシトドの行動データを基に、彼らが空間を共有し、群れを形成する背景を探求しました。
キガシラシトドが群れを形成する理由が、場所や資源のためなのか、それとも仲間との絆を重視するためなのかを解き明かそうとしたのです。