現代ではあまり馴染みのない言葉である「やいと」。魚の世界ではしばしば見かける言葉ですが、一体どういう意味なのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ヤイトと名がつく魚たち
日本には数多くの魚が生息しており、和名や通称を含めると数え切れないと思えるほどの「魚名」があります。そんな魚名にはしばしば「色々な魚でこの名前を見るけど、一体どんな共通点が?」と思えるものがあります。
そのようなものの一つが「ヤイト」。魚図鑑でヤイトとつくものを調べてみると、予想以上にたくさんの魚があります。
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標準和名についているものは「ヤイトハタ」程度ですが、地方名を含めれば「ヤイトガツオ(スマ)」、「ヤイトウオ(マトウダイ)」、「ヤイトガレイ(ホシガレイ、ヒラメ)」など次々に見つかります。ヤイトガツオについては、標準和名のスマよりも通りが良いと感じるほど著名です。
ヤイト(灸)ってどういう意味?
そもそもこの「やいと」という言葉、現代では使われる機会が極めて少なくなっており、意味がわからない人のほうが多いと思います。
やいととは漢字で書くと「灸」、お灸(おきゅう)のことです。お灸とは日本の伝統的医療のひとつで、植物の毛を集めたものを体表のツボの上に置き、火をつけて熱するというもの。
ツボに熱刺激を与えることで健康な状態に戻すという治療なのですが、長く続けているとツボに熱の跡が残ります。熱さに耐えないといけないため、特に子供にとってはお仕置きの一環でもあり、現代でも「お灸をすえる」という言葉が残っています。
なぜヤイトと呼ばれるの?
さてしかし、そんな「ヤイト」という言葉がなぜ水中に棲むサカナに用いられているのでしょうか。
実は、ヤイトと呼ばれる魚たちにはとある共通点があります。それは「丸い斑紋がある」というもの。スマは腹部の前より、マトウダイは体側の真ん中によく目立つ黒い斑紋があり、ヒラメは体の表面に無数の丸い模様がついています。
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これらの斑紋が、まるでお灸をすえられたあとのように見えるために「ヤイト〇〇」と呼ばれるようになったわけです。
面白いのは、お灸という治療法がかなりマイナーになった現代でも、これらの通名はしっかり残っているということ。もしかすると将来には誰にも意味がわからないまま、ヤイトと言う言葉だけが独り歩きして残っていくのかもしれません。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>