欧米メディアで看過されている点は、欧州の代表的カトリック教国ポーランドで教会離れが急速に進んできていることだ。そして伝統的に保守派のカトリック信者がPiS離れしてきたことだ。
アンジェイ・ドゥダ大統領が投票日を「10月15日」に決定したのは偶然ではない。ヨハネ・パウロ2世(在位1978年~2005年)は1978年10月16日にローマ教皇に就任した。与党PiSは支持層のカトリック信者を投票に動員するために、同国の英雄ヨハネ・パウロ2世の就任日の前日を選挙日にしたというわけだ。
冷戦時代、ポーランド統一労働者党(共産党)の最高指導者ウォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領は、「わが国は共産国(ポーランド統一労働者党)だが、その精神はカトリック教国に入る」と述べ、ポーランドがカトリック教国だと認めざるを得なかった。そのポーランドでクラクフ出身のカロル・ボイチワ大司教(故ヨハネ・パウロ2世)が1978年、455年ぶりに非イタリア人法王として第264代法王に選出された時、多くのポーランド国民は「神のみ手」を感じ、教会の信仰の火は国内で燃え上がったわけだ(「ヤルゼルスキ氏の『敗北宣言』」2014年5月27日参考)
ポーランドは久しく“欧州のカトリック主義の牙城”とみなされたが、そのカトリック教国のポーランドでも「神の館」と見なされてきた教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題が次々と発覚、小児性愛(ペドフィリア)の神父が侵す性犯罪を描いた映画「聖職者」(Kler)は2018年9月に上演されて以来、500万人以上の国民がその映画を観たといわれている。国内では教会の聖職者の性犯罪隠ぺいに批判の声が高まっていった。同国ではヨハネ・パウロ2世は絶対的な英雄だったが、その神話は崩れてきた。その結果、カトリック教会を支持基盤とするPiSは有権者を失っていったわけだ(「ポーランドのカトリック主義の『落日』」2020年11月7日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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