インフレが起こったとき、総需要を追加してはいけない

その結果、物価は25%上がり、これが賃上げ圧力となり、翌年の春闘では平均33%の賃上げが行われ、それがさらにインフレを呼ぶ賃金・物価スパイラルが発生した。

だが1979年の第2次石油ショックのときは、日銀の前川総裁が公定歩合を9%に上げたので、物価は8%しか上がらなかった。このときも世界的には2倍を超えるインフレになって英米経済は疲弊したが、日本は石油危機からいち早く立ち直って低燃費の小型車が爆発的に売れるようになり、日本経済が世界のナンバーワンといわれるようになった。

石油ショックの教訓は、インフレが起こったとき総需要を追加してはいけないということだ。1970年代に欧米では、インフレで失業率が上がったため、財政・金融政策で総需要を拡大したが、それがかえってインフレを加速して、長期にわたるスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)が続いた。

この経験から考えると、500兆円以上のマネタリーベースが日銀に「ブタ積み」になっている現状は、日本経済にガソリンが充満しているようなものだ。今までは20年以上ゼロ金利が続いたので、国民はインフレに慣れていないが、マネーストックは2020年のコロナ給付金で激増し、その影響が徐々に出ている。

マネタリーベースとマネーストックの前年比増加率(%)日銀

与野党がバラマキ財政や減税を競い、賃上げ圧力が強まっている状況は、50年前とよく似ている。こういうとき産油国がイスラエル支持国に輸出禁止などで報復すると、何が起こるかわからない。それ自体は大した事件でなくても、危機をあおると大パニックが起こるというのが歴史の教訓である。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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