東急電鉄と小田急電鉄が西武鉄道に中古車両を譲渡すると発表され、話題を呼んでいる。西武鉄道は東急電鉄から「9000系」車両を約60両譲り受け、多摩川線、多摩湖線、西武秩父線、狭山線に導入し、小田急電鉄から「8000形」車両を約40両譲り受け、国分寺線に導入する。今回西武鉄道が譲り受けるのは、消費電力の少ないVVVFインバーター制御車両であり、同社はVVVF化100%による使用電力量削減に伴い年間約5700t(約2000世帯の年間排出量)の二酸化炭素削減効果が見込まれると説明している。なぜ東急電鉄と小田急電鉄は、同じ関東私鉄大手として競合他社ともいえる西武鉄道に車両を譲渡するという異例の決断を下したのか。譲渡する側、譲り受ける側の双方にどのようなメリットがあるのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏に解説してもらう。

西武鉄道、財務面で大きなコスト削減効果

東急電鉄、小田急電鉄両社は通勤用の車両の標準化を進めていて、JR東日本のE233系をベースとした車両への置き換えを進めています。このため、自社独自の設計である東急電鉄9000系、小田急電鉄8000形は置き換えの対象となっており、廃車または譲渡先を探している状況でした。今回、西武鉄道が購入するということで要望に応じたということとなります。

過去に東急電鉄と西武鉄道とは箱根での観光開発をめぐってライバル関係にありましたが、現在では東京メトロ副都心線を介して相互直通運転を実施するなど良好な関係で、この点でも抵抗はなかったと考えます。また、西武鉄道と小田急電鉄との間の関係も地下鉄を介した相互直通運転は行われておりませんが、同じ関東の大手民鉄ということで関係は良好です。

東急電鉄と小田急電鉄側、西武鉄道側にどのようなメリットがあるのかという点ですが、東急電鉄、小田急電鉄は、車両を廃車にして解体する費用の削減が計れます。この費用は恐らくは1両1000万円程度(輸送費も含む)かと考えられ、100両で10億円と財務上無視できない金額です。

一方の西武鉄道にとってみれば車両を新造する費用の節減が図れます。国土交通省がまとめた2022年度の「鉄道車両等生産動態統計調査」の「第3表(3) 鉄道車両・新造・民鉄等向け」によると、西武鉄道が保有するような電車1両の価格は1億1472万3535円でした。100両購入すると114億円あまりとなり、これは大変な金額です。西武鉄道はコロナ禍で落ち込んだ鉄道事業の立て直しを図っている最中で、同社の持株会社である西武ホールディングス(HD)が2022(令和4)年5月12日に発表した『2022年3月期 決算実績概況および西武グループ中期経営計画(2021~2023年度)」の進捗』の45ページを見ると、鉄道事業の強化策として固定費の低減が示され、「サステナ車両」という他社の省エネ車両の購入がうたわれています。とにかく固定費の削減のためならなりふり構わずという態度で臨んでいる状況です。

中古車両の導入に際しては西武鉄道仕様の保安設備や無線装置への取り替えが必要となりますが、もともと新製する車両にも搭載する必要がありましたし、今回は廃車となる車両から流用すると思われますので、実質的な費用は載せ替えのための工賃くらい、しかも自社で行うのでほぼ費用はかからないと思います。

もう一つ、西武鉄道にとっては旧来のあまり省エネではない車両の置き換えが財務上も急務であったという点です。国土交通省の令和2年度の「鉄道統計年報」によりますと、西武鉄道の旅客用の車両は2021年3月31日現在で1286両在籍し、電力代は53億7080万6000円でした。1両当たりの電力費は417万6365円です。このうち100両分を置き換え、しかもその電力消費量は半分になると同社は言っているのですから、100両分の電力費4億1764万円が2億881万円となって年間2億円あまりを節約することができます。中古車両ではありますが、少なくとも10年は使えるでしょうから最大で20億円あまりの経費節減が図れます。西武鉄道としても仕様がかなり異なる他社からの中古車両を長くは使いたくないでしょうが、いまは鉄道事業の立て直しが必要で、状況が改善されれば車両を廃車にするか、地方の中小私鉄に譲渡して元を取ろうとするはずです。

こうした動きは、今後、鉄道業界内で多数起きると思います。たとえばJRどうしのケースも考えられ、過去にJR東日本の通勤車両がJR西日本に譲渡されたこともあり、今後も予想されます。それから、地下鉄を介して相互乗り入れを行っている鉄道会社どうしでは車両の仕様が統一されているので、こうした譲渡を行いやすく、今までも車両の走行距離の調整のために車両が貸し出されたケースもありました。相模鉄道などはJR東日本や東急電鉄との乗り入れを始めたこともあり、今後さらに車両が必要となったときに、両社から車両を譲り受けるかもしれません。

(協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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