そこで「トマトジュース」。台湾ではミニトマトは果物扱いだ。高雄の漢来ホテルは10階までが漢神百貨店やレストランで、そこから42階までがホテルだが、地下3階にはフードコートや台湾版「成城石井」の趣のスーパー「Jason」がある。

普通のトマトはその野菜棚だが、ミニトマトは果物棚にある。10年前は丸いミニトマトもあったが、今回は紡錘形をした実に甘いミニトマトだけだった。単行本大のプラパックに入って256元(約1200円)。マンゴー3個分、文旦5個分の値段だからかなり高いが、筆者の常備食だった。

二度目に「水」を差したのが、普通の「トマト」が原料の「トマトジュース」だった。

在勤当時、高雄日本人会にはゴルフコンペが二つあった。一つは高雄GCでの会、他は信誼GCでのシニア会で、2年3ヵ月の間にそれぞれ30回ほど参加した。後者は55歳以上の年齢制限があり、少人数だったので思い出が多い。その一つがトマトジュースだった。

ホールアウトしてシャワーを浴び食堂へ。冷蔵ケースからトマトジュースと台湾ビールを出してテーブルにつくなり、大きめのグラスにビールとジュースを7対3で注ぎ、一気に飲み干す。その旨さは例えようがない。台湾のゴルフは18ホールをスルーで回るからなおのこと。

銘柄は台南に工場のある「カゴメ」。「カゴメ」の総経理のドライバーがまた良く飛んだ。高雄GCも信誼GCもミドルの半分は400Yを超えるが、彼はアイアンで軽々2オン。こんなに飛ぶ素人は見たことがない。これも思い出の一つだ。

が、この10月4日のトマトジュースも思い出になるだろう。「CI-106便」は16時30分、轟音と共に小雨模様の桃園空港を離陸した。やがて機内食の配膳が始まる。昼前に胃に入れた「ズーロー」を疾うに消化していた筆者は「ジーロー(鶏肉)」を選び、早々に食べ始めた。

程なく後の席で飲み物のサービスをしている気配がした瞬間、筆者の後頭部から首筋にかけて冷たい液体が降り注いだ。ビックリして振り返ると、CAがしゃがんでトレーに紙コップを置いている。その底にうっすら残る赤い色は、紛うことなきトマトジュース!

寒がりの筆者は長袖Tシャツに半袖Tシャツを重ね着し、その上からガーゼ地の長袖を羽織っていた。CAが持って来たティシューの箱をひったくり、後頭部、首筋、シャツの襟に押し付けるとティシューが黄色くなった。上着の背中は見えないが、左胸には卵大の濡れがある。

幸い着ていた3枚はどれも茶系。トイレに立って鏡を見ると、薄茶の半袖Tシャツの両胸と後襟に橙色のシミ。色の濃い長袖Tシャツの襟にはシミは見えないが、さらに濃い茶の上着はパーサーが来て持ち去っていた。洗うというが、成田までに乾くのだろうか。

後のことは、チャイナエア成田空港旅客部と筆者が翌5日にやり取りしたメールに詳しい。帰宅を急ぐ筆者がメール連絡を所望したのだ。届いたCI成田旅客部からのメールにはこうあった。

機内サービス中、気流の関係等による不手際がありましたことを深くお詫び申し上げます。

お召し物のクリーニング代(上限3,000円)を当方で負担させていただきます。つきましては大変恐縮ですが、領収書を(*ママ)ならびに銀行口座等の情報をお送りくださいますようお願い申し上げます。

尚返信用封筒を郵送させていただきますのでご住所をお知らせいただけますと幸いです。

5日の高雄便が事もなく飛んだこともあり、筆者は鼻白んだ。が、帰宅後すぐ家内が洗濯した着衣にシミはない。パーサーも上着とTシャツを洗い、ヘアドライヤーででも乾かしたのだろう。その姿を想像すると怒る気も失せ、補償は不要だが、何でも金で済まそうとするのは良くない、と返信した。

安倍さんにも李登輝さんにも会えたし、まずは順調な台湾行だった。それが最終盤で「小犬」と「トマトジュース」に水を差された格好だが、無事に帰宅できただけで良しとしよう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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