レーザーで「月レゴリス模倣物」を加熱し、タイルを作ることに成功
今回の実験では、このプロジェクトが可能かを確かめるために、ESAが開発した月レゴリスの模倣物「EAC-1A」が用いられました。
月レゴリスはケイ素(Si)や鉄(Fe)の酸化物などで構成されていますが、EAC-1Aは同様の構成で再現されたものです。
ちなみにケイ素の酸化物はガラスの主成分です。
そしてチームは直径45mmのレーザーを使って、EAC-1Aの塵を約1600℃まで加熱して溶かしました。
彼らはまた、1ピースのタイルが直径約20cmの三角形になるようレーザーで描いき、それを連続して作成していきました。
完成したタイルは、上面が融解によってできた緻密なガラス状の層で構成されており、下部の融解していない境界領域では、焼結による薄い層ができていました。
このタイルの強度をテストした結果、焼結した部分はコンクリートに匹敵する強度を持つと判明しました。
この結果は、本物の月レゴリスを溶かして作ったタイルが、月面の道路やロケット着陸パッドとして活躍するかもしれないことを示唆しています。
「月の道路建設プロジェクト」の研究は始まったばかり
「月の道路」を現実のものにするためには、多くの課題に取り組まなければいけません。
例えば、タイル表面のガラス層は、強い熱衝撃(ロケット打ち上げなど)によって破損する恐れがあります。
ガラスの破片は宇宙ミッションのリスクになるため、今後は耐熱衝撃性を研究する必要があるでしょう。
また今のところ、タイルを作るためには膨大な時間がかかります。
実際、小さなタイルを作るだけでも約1時間かかっており、10m×10mの着陸パッド(厚さ2cm)を作るためには115日かかるようです。
ただこれは、実験のように小さなレーザーを照射した場合の話です。
実際に月面で本物のレゴリスを加熱するために、研究チームは月に降り注ぐ太陽光を収束させる方法を検討しています。
これは宇宙空間に巨大な集光器を設置し、太陽光を集めて目的のポイントを加熱されるという方法です。これは理科の実験で行った虫眼鏡で紙を焦がすのと似た原理です。
この方法で太陽光を集めれば実験で用いたレーザーと同レベルの強度の熱が得られ、月面で発電してレーザーを照射させるなどの手間がなくなります。
ただしそのためには、直径約2mの巨大なレンズが必要となり、これを宇宙まで運ばなければいけません。
しかも砂塵が舞い上がってしまうと上手く機能しなくなるため、この課題にも取り組む必要があります。
「月の表面を加熱して固める」という今回の研究は、まだ初期段階にあるため、今後も多くの実験を重ねていく必要があるでしょう。
それでも、現段階でいくらかの成果は出ており、今後の進展にも期待できます。
遠い将来、月には滑らかでまっすぐな道路が敷かれているのかもしれません。
参考文献
How to make roads on the Moon
Wild Experiment Shows How Lasers Could Be Used to Build Moon Roads
‘Streets on the moon’: lunar dust could be ‘melted’ to make solid roads
元論文
Laser melting manufacturing of large elements of lunar regolith simulant for paving on the Moon