近年増加傾向にある、とある危険生物。そのハサミで構造物を破壊したり、他の生物を食害してしまうのですが、一方で「めちゃめちゃ美味」という特長も持っています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「土手破り」「土手掘り」「土手切り」
中部東海地方で「ドテヤブリ(土手破り)」と呼ばれる生き物がいるのをご存じでしょうか。
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水路の土手を掘り穴を開けてしまうことからこのように名付けられたのは「ノコギリガザミ」というカニの一種です。
この生き物については同樣の地方名が各地に残っており、例えば徳島ではドテホリ(土手掘り)、岡山ではドテキリ(土手きり)と呼ばれます。
ノコギリガザミってどんなカニ?
ノコギリガザミはカニの中でも「ワタリガニ」と呼ばれるグループの一種です。一般的にワタリガニと呼ばれるガザミよりも大きくなり、世界的にはこちらのほうがポピュラーな存在かもしれません。
ノコギリガザミにはトゲノコギリガザミ、アミメノコギリガザミ、アカテノコギリガザミの3種がおり、とくに大きくなるアミメノコギリガザミではハサミを広げた大きさが60cm、重さは3kg近くなることもあります。
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ワタリガニ類に共通する特徴なのですが、一番下の脚が遊泳脚というボートオールみたいな形になっており、水中を泳いで魚のようなスピードで移動することができます。
ノコギリガザミが特徴的なのは、やはりそのハサミの堅強さ。ハサミが大きくて強いワタリガニ類の中でもとりわけ大きく、国内に棲むカニのなかでは挟む力が最も強いともいわれています。土でできた土手に穴をあけるのもおそらく容易でしょう。
今後、より身近な存在となるかも
このノコギリガザミですが、かなり高級な魚介であることでも知られています。特にもっとも美味といわれるトゲノコギリガザミは高価であり、名産地のひとつ浜名湖ではキロ単価で8000円ほどすることもあります。
大型で美味なカニである事、国内では生産量が限られてきたことがノコギリガザミが高価な理由です。しかし実は海外ではキロ単価でいうとそこまで高いカニではなく、カレーなど惣菜の具に用いられることもしばしばです。
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というのもノコギリガザミは水質汚濁に強いカニで、都市河川のような汚れた場所でも棲息できることから、南の国ではとても身近な存在なのです。日本は現状では棲息北限となっていますが、海洋温暖化のために各地でその数を増やしており、東京湾でも確認されるようになっているほど。
巨大な「土手破り」今後は身近な美味しいカニとして食卓に登る機会も増えていくかもしれません。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>