例えば、米国では少数派の権利を擁護する人種差別反対運動や性少数派(LGBT)擁護が広がっている。特に民主党は、「黒人は常に犠牲となっている」と口癖のように主張してきた。だから、多くの黒人は、「自分たちは犠牲者だ」と信じている。フェミニズム、ミートゥー運動もその点、同じだ。しかし、それが行き過ぎると、弱者、少数派の横暴となる一方、強者=悪者説が広がり、強者は守勢を強いられる。社会は活力を失い、健全な社会発展にもブレーキがかかる(「成長を妨げる『犠牲者メンタリティ』」2019年2月24日参考)。

いずれにしても、イスラエル軍のガザ地区地上戦が始まり、ガザ地区の完全封鎖が実行されれば、ハマスは必ずイスラエルの非人道主義を糾弾し、パレスチナ人の「犠牲者メンタリティー」を鼓舞するだろう。欧米社会でもメディアや一部の政治家たちはその「犠牲者メンタリティ」に騙され、イスラエル側を批判するだろう。ガザ地区の地上戦が長期化し、封鎖が長引けば、イスラエル批判は高まり、その時になれば、ハマスがキブツで行った大量虐殺テロも忘れられてしまうだろう。

人は時には加害者となり、時には被害者、犠牲者となる。常に加害者であったり、いつも犠牲者である、ということはない。加害者が犠牲者ぶる時は騙されないように用心する必要がある。そして「あなたは犠牲者だ」と言い寄る者がいた場合、警戒する必要があるだろう。あなたの「犠牲者メンタリティー」を利用しようとしているからだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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