神奈川県箱根町宮ノ下の「富士屋ホテル」は、10月5日(木)に日本デザイン振興会が主催する「2023年度グッドデザイン賞」を受賞した。

同ホテルは、1878年創業という日本を代表するクラシックホテルだ。歴史的建造物にいかにして改修を実施し、時代の必要性に対応できるホテルの姿を実現したのかを紹介しよう。

「富士屋ホテル」がグッドデザイン賞を受賞

グッドデザイン賞は、1957年に創設された「グッドデザイン商品選定制度」通称Gマーク制度で、日本で唯一の総合的なデザインの推奨制度だ。

Gマークは、同賞の創設以来半世紀に以上にわたり「よいデザイン」の指標として、その役割を果たし続けている。そのグッドデザイン賞を「富士屋ホテル」が受賞した。

耐震改修促進法改正を契機に耐震・防災改修を実施

「富士屋ホテル」は、登録有形文化財を含む、明治・大正・昭和の個性豊かな建築群より構成される。耐震改修促進法改正を契機に文化財的価値の保存と安全性確保の両立を目指し、歴史的建物に耐震・防災改修を実施。

また、ホスピタリティ精神にあふれるサービス提供のため、厨房や事務所、宴会場をカスケード・ウイングとして建て替え、歴史的建物に接続した。

そのデザインポイントとしては、耐震改修は意匠の保存を最優先し、補強部材を露出させない計画で、改修前と変わらない姿で改修を実現すること。また、戦後に改変されていた本館ロビーを昭和初期の姿に復元して、本来の広がりのある快適な空間を蘇生すること。レストラン・カスケードについては、旧カスケードの歴史的内装意匠の新築RC構造への移設・復元による保存継承が挙げられる。

文化財的価値を維持・向上し、高いサービスを提供

「富士屋ホテル」は、その事業目的として、唯一無二の建物の文化財的価値を維持・向上し、将来に確実に継承すること。時代のニーズを捉えたホスピタリティの高いサービス提供が可能な施設を実現することなどを掲げる。

そのため、本館・食堂棟、西洋館、花御殿、フォレスト・ウイングは、耐震・防災改修を実施。サービスの根幹を支える厨房、事務所の日本閣、宴会場のカスケードルームは、機能性・快適性向上を優先するため解体し、カスケード・ウイングとして建替えを行った。

こうして、歴史的建物を、最新機能を備えた新築建物がサポートすることで、歴史的空間において最高のサービスを提供し、訪れるゲストが歴史的文化的資産を心から楽しめるホテルを実現した。

建築基準法の法適用除外指定を適用し保存改修を実現

さらに、文化財の建物群を保存しつつ、新築建物を内部で接続することが求められた。また、本館へのバリアフリー対応のエレベーター増築は長年の課題でもあった。

こうした難題をクリアするために、建築基準法の法適用除外指定を適用。大規模宿泊施設への適用は全国でも前例がなく、高いハードルではあったが、県建築指導課と代替措置について合意し実現に至ったとのこと。

木造の本館・食堂棟は、耐火建築物の法的要求に対し、床・壁・天井内への防火被覆の挿入による準耐火建築物化と代替措置としてスプリンクラー・ドレンチャー・炎感知器等の設置を行った。耐震補強と併せ、改修前とほぼ意匠を変えない形で安全性を確保し、保存改修を実現している。

本館は、広がりのあるロビー空間の復元とエレベーターの増築、食堂棟のメインダイニングは、渡り廊下で接続された最新の厨房との連携により、歴史的空間での心地よいサービスの提供の実現を可能にしたのだ。

「富士屋ホテル」の建築物は、花御殿をはじめ箱根のシンボルともいえる存在だ。今回のグッドデザイン賞受賞の背景を知ることで、訪れた際に受ける感銘は増々深まることだろう。

富士屋ホテル
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359

(高野晃彰)