トランプ氏と同誌との確執は、この企画が始まった1980年代に遡る。資産をなんとしてでも大きく見せたいトランプ氏が弁護士に電話をさせたり、他人になりすまして電話をした疑いなど、数々の逸話がある。
1982年の創刊号から企画を担当したジョナサン・グリーンバーグ氏は以前、ワシントンポスト紙に「まったくの捏造」を見抜けずにトランプ氏をランクインさせたことを、悔恨を交えながら振り返っている。
「初っ端から執着していた」というトランプ氏は、当時新米のグリーンバーグ氏をオフィスに呼び、父フレッド氏が築き上げた23,000戸のアパートの80%を所有していると豪語した。これは後に、フレッド氏が死ぬまで所有権を保有すると遺言に残していたことから嘘だと判明する。グリーンバーグ氏が、物件あたりの価値をトランプ氏が主張する額の4分の1以下(総額2億ドル)で評価すると、今度はマフィアを顧客に持つ悪名高い弁護士、ロイ・コン氏に電話をさせて、評価額が低すぎると文句をつけて、変更を迫った。
翌年になると物件数は25,000戸に増えた。再びロイ・コン氏に電話をさせて、証明書類を見せることなく資産価値は7億ドルを超えると主張した。
なりすまし電話があったとするのは企画スタートから3年目。トランプ氏の企業の幹部でジョン・バロンと名乗る男性から2度電話が入った。ジョン・バロンはトランプ氏が父親から90%を超えるオーナーシップを引き継いだとしたほか、トランプ氏のニュージャージー州のカジノ事業が軌道に乗り、毎年5,000万ドルの利益を受け取る可能性を示した。フォーブス誌はその年、トランプ氏の純資産の評価を前年の2億ドルから4億ドルに増やした。
グリーンバーグ氏は、この時の会話のテープを後になって聞き返し、ニューヨーク訛りのジョン・バロンが明らかにトランプ氏だったと確信したという。
ワシントンポスト紙の記事の中では「トランプ大統領が米国で最も裕福な人物の一人というイメージを打ち出すために仕掛けた手の込んだ茶番劇を解くのに数十年かかった」とした上で、 「時間が経つにつれて、彼はフォーブス 400の最初の 3年間、まったく載ってはいけなかったことがわかった」と振り返っている。