狂言師・石田幸雄氏が50年以上の芸歴を経て、11月29日(水)~12月2日(土)の期間、30余年ぶりに芥川龍之介訳の一人芝居を上演する。

人生100年時代におけるセカンド・ライフが問われる昨今、伝統芸能の分野からも一石を投じる舞台として注目される。

狂言を牽引する第一人者石田幸雄氏の一人芝居

650年にわたり、綿々と続く狂言。通常は、2人から3人の登場人物で人々の機微を描く、世界最古の現存する喜劇だ。

今回は、その道を極めてきた石田幸雄氏が、培われた技術と経験を駆使し、一人語りの芝居として、自筆の書き下ろし新作『神っち』と、フランス文学『クラリモンド』の2本だて、しかも能狂言では異例の連続公演にのぞむ。

『クラリモンド』は、フランスの作家テオフィル・ゴーティエによる『死霊の恋』を、芥川龍之介氏が訳したテキストを石田氏が舞台化。

『神っち』は、石田氏が書き下ろした幼少期から親しんできた落語や講談に寄せた話芸で、財布を拾った八五郎と、彼が神社で遭遇した謎多き狂言調のキャラクター、江戸っ子気質なご隠居による爽快小噺だ。

明治学院大学教授の穴澤万里子氏と、本公演の企画・演出を務める石田淡朗氏による対談も行われる。

石田氏は、人間国宝・野村万作氏率いる「万作の会」において、野村萬斎氏とともに狂言を牽引する第一人者で、重要無形文化財総合指定者でもある。

また、大胆かつ緻密な演技で、数多くの優れた舞台歴を持つ能楽界の重鎮として知られる。

同氏は、2006年に宝生流シテ方・田崎隆三師氏とともに「雙ノ会」で文化庁・芸術祭大賞受賞。さらに2011年、個人で観世寿夫記念法政大学能楽賞受賞した。

新しい試みの舞台にも意欲的な発表が多く「法螺侍」「まちがいの狂言」「敦atsushi-山月記・名人伝-」「国盗人」でも活躍。普及公演での的確な解説にも定評があり「万作の会」の海外公演にも多数参加する。

狂言は人々の日々の喜怒哀楽を豊かに楽しく繰り拡げてゆくもの

石田氏は「狂言は『このあたりの者でござる』に表徴される様に、普通の人々の日々の喜怒哀楽を、豊かに楽しく繰り拡げてゆきます。或る意味で愛おしく、心温まるものです。」と語る。

さらに「それでも、そういった狂言を長年演じ続けていますと、中々ない題材のものを演ってみたくなります。『人の生と死、恋愛の苦悩、切なさ、ロマン、ファンタジー』といった心踊るもの、せつないものです。」と述べる。

そして、一人芝居に関して「同時にご覧いただくのは、180度違った、純粋に楽しいものです。狂言師の心で、落語をやったら面白そうだなと思いました。落語と狂言、登場人物も内容もよく似ていて、出てくるのは、みんな私の大好きな人たちです。」とコメントする。

世阿弥は『風姿花伝』で「能は、枝葉も少なく、老木になるまで、花は散らで残りしなり」と、年老いてから咲かせる花、すなわち芸の魅力に、至高の美しさがあると言っている。

74歳の狂言師・石田幸雄氏が、その芸跡を振り返り、今こそ新しいことに挑もうという公演は見逃せないものになるだろう。

石田幸雄2本立て公演『クラリモンド』『神っち』
会場:銕仙会能楽研修所
所在地:東京都港区南青山4-21-29
日時:11月29日(水)~12月2日(土) ※3回公演

(高野晃彰)