昔は誰もが、音楽を聴く「カセットテープ」、テレビを録画する「ビデオテープ」を使っていましたが、現在では中古品を見つけることさえ苦労します。
一世を風靡したこれら磁気テープは、「もう古い」のでしょうか。
実はそうではありません。最新技術を用いた磁気テープは、情報で溢れる現代社会における大量データの保存媒体として再び注目されています。
そして最近、アメリカのテクノロジー関連企業「IBM」と日本の精密化学メーカー「富士フイルム」が、50TB(未圧縮時)のデータ保存が可能な磁気テープを開発しました。
これは世界最大の記憶容量を実現したテープ・ストレージ・システムとなります。
詳細は、2023年8月30日付の富士フイルムの『ニュースリリース』にて発表されました。
情報が溢れる現代だからこそ「磁気テープ」が活躍する
近年、4K・8K映像の普及により、世の中で扱うデータ量が爆発的に増加しています。
また今後の発展が大いに見込めるAI技術においても、膨大なデータを扱う必要があります。
AIは特化させたい分野の情報をたくさん学習させることで賢くなりますが、そのためにも貴重かつ膨大なデータを保管しておかなければいけません。

そこで現在注目されているのが、「LTO(Linear Tape-Open)」などの磁気テープです。
LTOはコンピュータ用の磁気テープであり、従来の磁気テープと同様、薄いテープ状のフィルムに粉末状の磁性体が乗っています。
記録機器の磁気ヘッドを通過する際に、それぞれの磁気を変化させることで情報を記録するのです。
現在、私たちにとって身近な記憶媒体は、ハードディスク(HDD)や、SSDなどの半導体メモリであり、ハードディスクは特に記憶容量が大きいというメリットがあります。
一方、LTOのメリットもまた記憶容量が大きいことであり、その最大容量はハードディスクをはるかにしのぎます。
2021年に発売された第9世代「LTO-9」は、非圧縮時で18TB、圧縮時で45TBものデータを保存できるほどです。

これでLTOテープのサイズが10.5cm×10.2cm×2.1cmと、ハードディスクよりも小さいのだから驚きです。
しかもLTOのランニングコストは、ハードディスクのおよそ30%しかかかりません。
さらにテープという形式上誤解されやすいですが、ハードディスクに比べてエラー発生率が1000分の1から1万分の1だと言われています。
またデータ転送速度もLTO-9で最大400MB/sとなっており、ハードディスク(約150MB/s)やSSD(約500MB/s)と比較しても決して遅くありません。
加えてLTOは50年以上劣化しないため、大量のデータを長期保存するのに向いているのです。
とはいえ2022年には最大容量22TBのハードディスクが登場。
ハードディスクも負けじと進化を続けているようです。
それでも最近、IBMと富士フイルムが新しい磁気テープを発表しました。
これによってハードディスクを完全に置き去りにしてしまったようです。