「感覚特異的満腹感」でダイエットは可能か?
1985年に発表された研究は、長期間同じ食品を食べ続けることで、食品そのものに対する味の魅力や食欲が減少することを示しています。
研究は、約6カ月間同じ3つの食品を摂取していたエチオピアの難民を対象に行われました。この研究では、食品そのものに対する魅力の現象が、その食べ物を摂取し続ける時間の長さに比例することが示されました。
このことから、同じような食事を長期間続けることで、食事そのものを楽しめなくなる可能性があることがわかります。すなわち、理論的には「感覚特異的満腹感」を減量ツールとして利用することは可能…ではあります。
ただし、この方法は続けられませんよね。栄養の偏りが心配ですし、ストレスでドカ食いをしてしまいそうです。
ロールズ氏は、ダイエットの文脈における「感覚特異的満腹感」の活用は、「食事のバラエティを増やすことで、全体的な食事量をコントロールすること」にあると言います。
例えばピザに飽きた後、サラダやフルーツのような異なる種類の食品に移ることで食事の楽しさや満足感を維持しつつ、特定の高カロリー食品の過剰摂取を避けるというやり方です。
食事を上手にコントロールしたいなら、高カロリー食品のバラエティを増やすのではなく、健康的な食品を様々に取り揃え、身近に置くと良いでしょう。
「必要なのは健康的で、低カロリーで、栄養価の高い食品をバラエティ豊かにしておくことです」
私たちの体には本当に「別腹」が存在するらしい
さて、最後に「別腹」の存在を異なる観点から確認してみましょう。
カナダのクイーンズ大学家庭医学部門(Department of Family Medicine, Queen’s University)の研究者たちは、「体の中にデザート専用のスペースがある」という仮説を検証し、2006年にその結果を発表しました。
研究の対象者は、ブルーベリーパイ食べ放題コンテストの過去の優勝者や準優勝者から選ばれました。
彼らは2種類の異なる造影剤を使用して胃のX線撮影を受けました。1つは通常のバリウム、もう1つはデザートのような甘さと食感を持つ特別な造影剤「ファッジオグラフィン(Fudge-o-grafin)」です。
結果、「ファッジオグラフィン」をを使用したX線撮影では、全ての被験者の胃にパイの切れ端の形をしたスペースが確認されました。しかし、通常のバリウムを使用した撮影では、このようなスペースは確認されませんでした。
研究者は「これは、デザートを食べるための特別なスペースであると考えられます」と述べています。
また、ノルウェーのベルスタッド氏(Berstad)は、2011年に『ノルウェー医師会ジャーナル』誌にて「甘いデザートを食べると胃に余裕ができる」と述べています。
甘いものに含まれるブドウ糖が収縮反射を刺激することで、胃の圧力を下げ、満腹感を軽減するのだと言います。
どうやら私たちは、バランスの取れた食生活を実現するために有用な、変化に富んだ食事の消費を促すため「感覚特異的満腹感」を持っているうえ、体の中に甘いものを格納するスペースを持っているようです。
持続的に適正体重を維持したいなら、この「能力」を上手に活用し、低カロリーかつ栄養価の高い食品で食欲を上手にコントロールすべきなのかもしれません。
参考文献
Society for the Study of Ingestive Behavior