高級二枚貝として人気の高いホタテガイ。生産時に大量の「産業廃棄物」が発生してしまうことが悩みの種となっています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「現代の貝塚」と「白い道」
青森県に「現代の貝塚」と呼ばれる場所があるのをご存じでしょうか。
陸奥湾の中央に突き出す夏泊半島にあるその貝塚は、丘のように盛り上がり、遠くからでもすぐ分かるほどに白く輝いています。近くに寄ると、その丘が「ホタテガイの殻」でできていることが分かります。

貝塚ではありませんが、北海道にはホタテガイの殻でできた「白い道」が存在します。アスファルトやコンクリートの代わりに「ホタテガイの殻を砕いたもの」で舗装されているという一風変わった道です。「日本最北の白い道」と言われて観光名所にもなっています。
なぜ厄介者なの?
青森県や北海道では、ホタテガイの養殖が盛んに行われています。ホタテガイの可食部(軟体部)は重量の50%前後となっており、残りの大部分は殻です。
そのため生産地では非常に大量のホタテガイ殻が排出されます。廃棄されるホタテガイの殻は、全国で年間に25万tにも及びます。

このホタテガイの貝殻ですが、産地ではその扱いに苦慮しています。ホタテガイの貝殻は難燃性であり、焼却処分が難しいのです。また分解されにくい炭酸カルシウムでできているため、埋め立てても生ゴミのように分解されるわけではなく、また貝殻に塩分が付着しているため、そのまま埋め立てると土壌汚染にもつながってしまうのです。
結果として最終的には産業廃棄物として処理をしないといけないため、処理に費用がかかり、厄介な存在となっているのです。北海道ではごく一部が上記のような舗装資材として簡単に再利用されていますが、陸奥湾では使い道が見つからないものがそのまま廃棄物として積み上げられています。
資源として再利用されるものも
そんなホタテガイの殻ですが、実はその一部は各種資源として再利用され始めています。貝類の殻は多くの場合炭酸カルシウムという成分でできており、これを取り出せば資源となるのです。
例えば、殻をよく洗浄し、砕いて鶏の飼料に混ぜると、鶏の栄養として不足しがちなカルシウムを補うことができます。また同様によく洗って砕いたものを畑に混ぜ込めば、酸性土壌をアルカリ性に傾け、野菜が育ちやすい環境を作ることが可能です。

さらに、炭酸カルシウムは高温で焼成すると酸化カルシウムになり、これを水に溶かして乾燥させると水酸化カルシウム、いわゆる消石灰ができます。
こんにゃくの製造にも
これは各方面で利用されていますが、特に身近なものだとこんにゃくの原料に用いられています。かつては植物を焼いた灰を水に溶かして用いられていたのですが、より強いアルカリ性であり安全な食品添加物でもあるホタテガイ由来の水酸化カルシウムを用いて作られることが増えているそうです。
こんにゃくのあのぷりぷりとした食感は、ホタテガイから出る「廃棄物」によってもたらされているのです。



<脇本 哲朗/サカナ研究所>