ゼブラフィッシュの胚の最初の鼓動を捉えることに成功

研究チームは、脊椎動物の最初の鼓動を調べるために、ゼブラフィッシュの胚を使用しました。

ゼブラフィッシュは体長5cmほどの小型の魚です。

脊椎動物でありながら胚が透明であり、急速に成長してわずか24時間で心拍が発生します。

また遺伝子改変なども容易なため、モデル実験動物として利用されます。

チームは、胚発生(受精卵が細胞分裂を始めて個体を形成する過程)を観察し、形成された心臓が最初にどのように鼓動するのか記録。すべての心臓細胞のカルシウム濃度と電気活動の変化を捉えました。

鼓動の始まり。機械的収縮を伴うカルシウムダイナミクス
Credit:Bill Z. Jia(Harvard Medical School) et al., Nature(2023)

その結果、研究チームは、すべての心臓の細胞が、突然拍動を開始し、すぐに全体が同期して「心臓の鼓動が開始される」のを発見しました。

心筋細胞たちの動きは徐々に開始・拡大されていったり、徐々に連動していったりするのではなかったのです。

コーエン氏は、「誰かがスイッチを入れたかのようだった」と語っています。

ゼブラフィッシュの心臓の最初の鼓動を高解像度で示したもの
Credit:Bill Z. Jia(Harvard Medical School) et al., Nature(2023)

さらに詳しい調査では、最初の心臓の鼓動の90分前に、それぞれの心筋細胞がまるで準備するかのように興奮状態になると判明しました。

心筋細胞が発達するにしたがってカルシウム濃度が高まります。

そしてある細胞でカルシウム濃度が突如急激に上昇。電気活動の爆発が起こり、瞬時に残りの細胞に伝わってそれぞれの拍動を促していたのです。

最初の数回の鼓動はやや不規則ですが、すぐに同期することも分かりました。

どの心臓細胞も「鼓動の起点」となり得る

興味深いことに、どの細胞が最初に拍動するかは、特に決まっていませんでした。

複数のゼブラフィッシュの胚で比べたところ、起点となるカルシウム濃度の上昇は、常に同じ場所から発生するわけではなかったのです。

成体の心臓はペースメーカー細胞が基準となりますが、胚における心臓の細胞は、それぞれが独自に拍動する能力があり、どこが起点になるかを予測することは困難でした。

18個の胚の鼓動。心臓は緑色に光っている。カルシウム濃度の上昇に応じて明るくなる
Credit:Bill Z. Jia(Harvard Medical School) et al., Nature(2023)

加えて研究チームは、瞬時に同期する細胞たちに驚きました。

彼らはその機能を「練習もなしに、最初から足並みをそろえて行進できる軍隊」と表現しています。

ちなみに、リズミカルな心臓の鼓動は、心臓が循環系に繋がれて血液を送り出すかなり前に発生するようです。

また研究チームによると、ゼブラフィッシュとヒヨコやマウスの胚は類似しているため、今回発見できた鼓動のメカニズムは、私たち人間を含む、脊椎動物のグループ全体に共通するかもしれません

もしそうであるなら、不整脈など人間の心臓の異常がなぜ起こるのかを解明するのに役立つ可能性があります。

脊椎動物の最初の鼓動は、科学者たちの推測を超えるものでした。

今後も命の鼓動が開始される瞬間を突き詰めていくなら、さらに驚く発見があるかもしれません。

参考文献
How the Heart Starts Beating
New Study Captures The Very Moment a Heart Starts Beating in an Animal Embryo
元論文
A bioelectrical phase transition patterns the first vertebrate heartbeats