日本の各地に伝わるカニ料理「がん汁」。ときに「飲むカニ」と言われることもある贅沢な料理ですが、作り方はとても簡単です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「モクズガニ」漁が盛期迎える
福井県を流れる北陸地方有数の大河・九頭竜川で、人気の食材「モクズガニ」の漁が最盛期を迎えています。
モクズガニは日本の河川に生息するカニの中では最も大きなもので、甲羅の幅は大きいもので8cmほどになります。ハサミに藻のような毛が生えているためにこのような名前がついています。
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今月8日には地元の漁師が川底に仕掛けたかごを引き上げ、30匹を漁獲しました。この時期は繁殖のため河口に下る習性がありますが、今シーズンは季節の進みが遅いせいか、例年に比べて1週間ほど漁期が遅れているそうです。
モクズガニは、産卵に備えて栄養を蓄える今の時期が旬です。実は中華の超高級食材として知られる上海ガニときわめて近縁なカニで、味も大きく変わりません。
モクズガニと言えば「がん汁」
そんなモクズガニは全国の河川に生息し、各地で食用となっています。前記の通り非常に味が良いカニなのですが、海のカニと比べるとサイズが小さく、身をほじって食べるのは少し手間がかかるのが難点です。
そのため、このカニはしばしば「がん汁」という料理にされます。地域によってはかに汁、がに汁、ツガニ汁などと呼ばれることもあるのですが、この料理ではまずモクズガニを生のまま砕いてつぶします。そうして出てきたエキスを水で溶いて濾し、カニのエキスを取り出します。
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それを煮たてると、エキスに含まれるタンパク質が団子状にまとまって凝固、個体となり、液体と分離して浮かびます。これを野菜とともに煮て味付けすれば完成。
味はまるで「飲むカニ」といったもので、口に含むとカニの香ばしさと濃厚な旨味が口いっぱいに広がります。手間こそかかりますがほかのものに代えがたい味わいで、これを飲まないと秋が来ないという人もいます。
モクズガニでなくても作れる!
このがん汁、モクズガニの料理としてあまりに有名なため、このカニの専売特許のように扱われることもしばしばです。しかし実際はほかのカニでも作ることができ、新鮮な生のカニであればどんなものでも材料となります。
注意点としては、材料に塩分が含まれていると加熱の際にタンパク質が一気に固まらず、団子状になりにくいことがあります。そのため海のカニで作る際は、鰓や胃袋など塩分を多く含む部位は事前に取り外しておくとよいとされます。
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またカニに限らず、ザリガニやエビなど他の甲殻類でも同様の汁を作ることが可能です。ちなみに筆者はあのダンゴムシの親分のような深海生物オオグソクムシで作ったこともありますが、しっかり美味しい味わいになりました。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>