「私、毒を放出して周りの人にアレルギーを起こすんだ」
そう言われたら、びっくりしますよね。まるで、ゲームやアニメに登場する悲しき運命を背負ったキャラクターの台詞のようにも思えます。
しかしそんな訴えをする人が実際に存在しています。
謎の疾病「PATM」は皮膚から揮発するガスによって、周囲の人にアレルギー反応を起こすと言うのです。
ただこの病名はインターネットスラングから名付けられたもので、ネット上で悩みを訴える人々が散見されるのみで医学的に詳しい病態がほとんどわかっていません。
そこでこの非常にまれな疾患に東海大学の関根嘉香教授のチームが切り込みました。
チームは、「自分はPATMだ」と訴える人の皮膚ガスを測定・分析し、彼らの皮膚表面から特定の有害化学物質が多く放出され、その皮膚ガス組成には共通の特徴があることを明らかにしたのです。
研究は「PATM」の臭気物質に関する世界初の論文です。詳細は、2023年6月10日付の『Scientific Reports』誌に掲載されています。
人は私にアレルギーがある(PATM: People Allergic To Me)
周囲にアレルギー症状を引き起こす「PATM」
自分の体臭が原因で、周囲の人にアレルギー反応を引き起こしたと訴える人が存在しています。
人の体臭は、皮膚表面から放出されるいくつかの揮発性化合物(いわゆる「人の皮膚ガス」)から成り立っています。体臭は通常、周りの人に「快適か、不快か」の問題として扱われます。
しかし、PATMを訴える人の周囲では、実際に、くしゃみ、鼻水、咳、目のかゆみ、目の充血などの症状に苦しむ人がいます。
本人も「今は外に出るのも怖い」と抑うつ状態に
周囲だけでなく、PATMに悩む人には、抑うつ状態や、他者とのコミュニケーションを避ける傾向がみられます。加えて、自分の体臭に悩んだ経験などから「自分はPATMで周囲に迷惑をかけている」などと、思い込む人もいます。
PATMは、インターネットのコミュニティサイトで生まれたインターネットスラングです。People (are) Allergic To Me(人は私にアレルギーがある)の頭文字を取ったものです。
米国の掲示板投稿型ソーシャルサイト『Reddit』には、活発なPATMコミュニティが存在し、症状に苦しむ人々が交流しています。

あるメンバーは、次のように苦しみを吐露しています。
「食事をすると、あちこちで咳き込む人がいる。今は外に出るのも怖い。どうやって生きていけばいいのかわからない。自分の人生がただ流れていくだけなのは悲しい」
また別のメンバーは、「重度のうつ病でいくつもの病院を訪れた」と語っています。
苦しむ人がいる一方で、PATMの実態は、科学的・医学的に全く解明されていません。
ここに光を当てようとしたのが、東海大学の関根教授の研究チームです。
研究者らは、PATMを訴える参加者の皮膚から不快臭を持つ化合物が放出されていることを発見しました。