ゾンビ菌は進化の袋小路に入り込んでいる

ゾンビ菌が世界中の動物に感染することはあるのか、そして地球の歴史であったのか?
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映画「ラスト・オブ・アス」では虫に感染して行動を支配するゾンビ菌がパンデミックを起こし、人類のほとんどがゾンビになってしまった世界が描かれています。

しかしアリやセミのゾンビ菌が魚や鳥、カエルや人間に感染を広めて世界中の動物をゾンビ化させることはありません。

地球の歴史においてもゾンビ菌による大規模なゾンビ化現象、例えば恐竜がゾンビ化してしまうような事態は確認されていません。

もしそんなことが起きていたら、痕跡は化石にも残るはずです。

ゾンビ菌はアリやセミの精神を乗っ取り、望みの行動をとらせるという複雑な仕事を実現するため、対アリ感染に特化した進化を続けてきました。

セミに寄生し、性行為でパートナーを次々にゾンビ化させる菌が怖い。

特定の宿主に特化すればするほど、種を超えて感染を起こす汎用的な能力は失われていきます。

再び乗り物で例えるならば、昆虫のゾンビ菌が人間に感染するのは、ゴルフカートのような近距離の地上しか移動できない乗り物で太平洋横断を目指すようなものでしょう。

といってもペストのような例外はあります。

ペストはノミに感染している細菌が人間に感染することで発症します。

(※ペストの病原体は真菌ではなく細菌に属します)

しかしペストの場合、長年にわたってノミと哺乳類の関係が形成されており、人間に感染する下準備が整っていました。

太平洋に既に橋がかかっており、ゴルフカートでも走破できる状況だったと言えるでしょう。

しかしゾンビ菌には人間との間にそれらしい架け橋が築けていません。

アリのゾンビ菌は人間の神経を支配したり、人間の免疫システムを突破する方法も知らないからです。

昆虫よりもさらに遠く植物を宿主にする真菌が、人間に感染するケースに至っては、さらに困難と言えます。

植物と動物が枝分かれしたのは10億年以上も前であり、エネルギーシステムも免疫システムも全く別物です。

植物に感染するように進化してきた真菌はある意味で草食性であり、はやり人間の免疫システムと戦う方法も知りません。

(※免疫能力が極度に衰えている状態では、枯れ葉を食べているような本来なら無害なはずの真菌に感染してしまうこともあります)

その困難さを例えれば、ゴルフカートを使って月へ行くのに等しいと言えます。

しかし、今回それが起きてしまいました。