まずはフィールド上の審判が判断・判定
大前提として、主審が何も判定を下さずに、VARにジャッジを委ねることはできない。「見逃された重大な事象を除き、主審およびフィールドにいるその他の審判員は、常に判定を下さなければならない(反則の可能性があったが、罰則を与えなかった場合の判断を含む)。判定は、はっきりとした明白な間違いでない限り、変更することができない」と、現行の競技規則で謳われているからだ。
この大原則は、集団的対立が起きた今回のG大阪対浦和でも守られた。
VARが介入する前に、荒木主審はフィールド上の他の審判員との協議を経て、カンテと宇佐美、及び浦和の選手との対立が見られたMFダワン(G大阪)にイエローカードという判断を当初導き出している。この荒木主審の判定が、VARの松尾一氏に伝えられた。
荒木主審の判断・判定を受け、VARの松尾氏はオンフィールドレビューを進言。その結果、当初警告が与えられるはずだったダワンはお咎めなしとなり、宇佐美と黒川にイエローカード、カンテにレッドカードという判定に変わった。
「集団的対立では、(複数の選手に)いろいろなカードを出したり、(オンフィールドレビューの末に)カードを差し替える可能性があります。(VAR介入前に)主審がカードを出して、VARに呼ばれて映像を見に行って、その結果一度出したカードを取り消したり新たに追加したりすると、更なる混乱を招くリスクがある。ただ、だからと言って主審が(VAR介入前に)何も判定しないのはダメ。なので、現場の判断を必ず(VARに)伝えてくださいと。現場の判断をVARがチェックする形ですね」
集団的対立の判定手順を、東城氏はこのように説明している。カンテのファウルからその後のプレー再開まで10分以上の時間を要したが、適切な手順で妥当な判定が下された。
集団的対立は防げなかったのか
今回のレフェリーブリーフィングでは、カンテのホールディングの反則が警告の対象にならなかったことが話題に。荒木主審がカンテにイエローカードを即座に提示していれば、同選手やG大阪の選手たちのヒートアップを抑えられ、試合のコントロールに繋がったのではないか。こうした意見が報道陣から挙がった。
東城氏はこの意見に理解を示しつつも、カンテの反則とほぼ同時に集団的対立が起きてしまったことで、荒木主審の対応の難易度が上がってしまったと分析している。
「レフェリーとして、現場で(対立が起きる前に)まず何ができるのか。これは考えなければならないと思います。(カンテの反則シーンで荒木主審は)笛を吹いていますし、カードを出そうと思えば出せるので、その対応は(選択肢として)あったのかなと。ただ、対立が起きたことでカードを出す機を逸してしまった部分があるかもしれませんし、(騒動の輪の中へ主審が)入ることのリスクもあるので。『たられば』の話なので難しいですが、我々(審判委員会)で共有しなければいけない部分だと思います」
集団的対立を未然に防ぐためのゲームコントロールと、一つひとつの判定精度の向上。これは審判員にとって永久のテーマとなるだろう。