「いつの仕事分から適用されるのか、分からない」

 声優業界では同制度開始を控え、その影響はみられるのか。VOICTIONの広報担当者はいう。

「声優事務所のなかには、いまだに対応を決めていないところもあり、所属する声優は『どうしていいのかわからない』という状況に置かれています。また、所属事務所から『免税事業者のままだと手数料を10%値上げする』と一方的に伝えられている声優も多いです。そういう声優からは『事務所を移りたい』という声も聞かれますが、人気声優ではない限り、新たに引受先になってくれる事務所を見つけることは簡単ではなく、廃業に追い込まれる声優が増えることが懸念されます。

 また、フリーランスのもとには発注元の音声制作会社などから『インボイスの登録番号を教えて』『免税事業者のままなのか、課税事業者になるのか』といった問い合わせが数多く寄せられ、対応のために煩雑な手間が増えています」

 では10月の制度開始以降、どのような事態が起きると予想されるのか。

「すでに大混乱が起きているのですが、その原因は『いつの仕事分から適用されるのか、分からない』というものです。この業界では、報酬が支払われるのが、仕事をした月の3カ月後だったり10カ月後だったりというケースがザラにあるのですが、たとえば10月に支払われる分があったとして『この5月にやったお仕事分はインボイス制度が適用されるのか?』と所属事務所に聞いても、誰も分からないというケースが起きています。それでも事務所に所属していれば、そこはある程度、事務所のほうで対応してくれるかもしれませんが、フリーランスの声優は1件1件、発注元に確認する必要があり、その負荷は相当なものです。仮に制度として明確な取り決めがあったとしても、発注元の事業者ごとに処理の仕方が違う場合もあるでしょうから、そうなると声優側としては個別で対応しなければならず、かなりのパニックが生じる気配が濃厚です。

 また、個人情報の問題も大きいです。声優は所属事務所や発注元に本名とインボイスの登録番号を記入した書類を提出しますが、いくら『屋号や住所は書かないで』と言われても、誤って記入して出してしまう人もいるでしょうし、照合すれば個人情報がバレてしまうと心配になってしまうのは当然です。現在ではアイドル的な活動を行う声優も少なくなく、もし仮に情報漏えいが起きれば、照合によって本名や住所がバレてしまうリスクもあります。これは声優に限った話ではなく、そのリスクを恐れて課税事業者になることをためらうフリーランスの人も少なくありません」(同)

 今、国に求めることは何か。

「『インボイス制度をやめてください』という一言に尽きます。物価上昇で多くの国民が苦しんでいるときに国がやるべきことは、減税なりで国民の負担を減らすことだと思いますが、国はこの制度の開始によって逆に国民を『より苦しめよう』としています。一方、この制度によって、本来は良好な協力関係・信頼関係を築くべき声優と所属事務所、制作会社の間にヒビが入り、無用な仲たがいが生じる懸念も高まっています。そんなことになれば、誰も得しません」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=VOICTION)


VOICTION

咲野俊介、甲斐田裕子、岡本麻弥によって立ち上げられた有志グループ。2023年10月に施行が予定されている適格請求書等保存方式、通称インボイス制度の影響を強く受ける恐れがある声優・アニメ業界の声を届けるべく活動をしている
Twitter:@VOICTION

提供元・Business Journal

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