売上高では1000万円以上5000万円以下が30.1%で最多、次が1億円以上10億円未満が19%ある一方、売上高0円も18.4%ある。営業利益となると更に厳しく、0円が24%もあるし、0円以下つまり赤字企業が32%ある。黒字企業は44%で、1億円以上は1%(2社)しかない。やはり年間3億の利益を上げるのは至難の業と言える。それに、大学発ベンチャーの稼ぎが全部大学に行くはずもない。

こうして見ると、すぐに年3%の成長などを要求すること自体が無理だと分かる。ならば、毎年の100億円は利息分なのだから、くれてやっても良い、すぐの見返りは求めない、と割り切ってはどうだろうか?情けは人のためならず、とも言う。じっくり育てる根気が必要だ。ついでながら、100億円1校ではなく、1億円100校に配る方が、多くの大学人は助かると思う。1億円を各研究室に配ると微々たる金額にしかならないが、それでも有難く思う研究室は相当数あるはずだ。

もう一つ気になるのは、ガバナンス(組織統治)の強化が強調されていること。学外者らで作られる経営意思決定機関を設置し、全学を号令一下、何でも言うことを聞かせる体制を作るという意味のようだ。

これは、学内の人間にとっては、相当に鬱陶しい状況になりそうだ。自由に研究したいのに、上から「あれをやれ、これをやれ」と指図されるのか?このガバナンス強化と「学問の自由」は、どのように両立するのだろうか?筆者は残念ながら、これに関する説得的な説明を聞いたことがない。戦前・戦中の大学みたいにならなければ良いのであるが。

現在の大学が抱えている問題は、研究資金の不足もあるが、何と言っても教員の多忙すぎる生活自体にあると筆者は考えている。この業界でも「人手不足」が目立ち、教員が何でもかんでもやらなければいけない仕組みに陥っているし、研究者の非正規化も進んでいる。特に基礎科学分野では、30〜50代でも非正規の研究者が多く、これではじっくりと腰を据えた研究などできはしない。常に現状の「評価」に追われ、次の働き先を探しながらの落ち着かない生活になるからだ。

任期付きの不安定な立場でポストを渡り歩くような生活では、優秀な人材が腐ってしまう危険度が高い。上手く渡って行ける人もいるだろうが、その精神的ストレスは大きく、うつ病罹患率が高いという話も頷ける。

話をまとめると、地盤沈下を続ける日本の大学の活力を上げるには、今回の大学ファンドのような「選択と集中」ではなく、多くの大学に自由に使える潤沢な資金を与えることが必要だ。そして教員の身分を正規雇用にして安定させ、安心して教育研究に専念できる環境作りをすることだ。

今の日本の大学は、働き過ぎてヘトヘトに疲れ果てた人に例えるのが適切だと思う。大学組織も大学人も多くは疲弊している。この状態の人を鞭打って働かせようとしても功は少ない。与えるべきは十分な栄養と休養だ。大学には自由と資金を。これが特効薬になるために「十分」かどうかは不明だが、少なくとも「必要」な条件ではある。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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