「江戸前」や「明石もの」など、地域の名前を冠した魚介ブランドは多いですが、中には初見だと「それ、どこの魚?」となってしまうものもあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
「ひがしもの」のマグロ
宮城県塩釜市のブランドマグロである「三陸塩竃ひがしもの」が今月中旬、仙台市中央卸売市場に入荷し、今年の初競りが行われました。
「三陸塩竃ひがしもの」は、9月から12月までの間に三陸沖で漁獲した40kg以上のメバチマグロで、なかでも鮮度や脂のりなどが良いと認められたものだけが名乗ることができます。9月15日に仙台市中央卸売市場に入荷したおよそ120本のメバチマグロのうち、「ひがしもの」に認定されたのは26本だったそうです。
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この「ひがしもの」という名前は、三陸海岸の東沖で漁獲されることに由来します。この海域は暖流である日本海流(黒潮)と寒流である千島海流(親潮)がぶつかり合うためプランクトンが多く、それを食べる小魚が多くなるためメバチマグロの餌も多くなり、高品質となるのです。
「前海もの」はどこを指す?
この「ひがしもの」のように、知らない人が聞くとどこなのかよくわからない「魚の地域ブランド」はいくつかあります。その一つが「前海もの」。
前海とは一般的に、東京湾や大阪湾のような大消費地に面した海域を表すのですが、鮮魚流通の世界で「前海もの」といえばそれは有明海産の魚介を示します。なかでも特に有明海の湾奥にあたり干満差が大きく、独特な魚介が多い佐賀県で水揚げされるものを指すことが多いようです。
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ムツゴロウやワラスボ、ウミタケ、ハゼクチ、エツなど有明海特産の魚介のほか、ガザミやシャコ、シタビラメなども前海ものに挙げられています。
「前沖もの」は八戸港のサバ
さて、この手の地域ブランドで、個人的に最もわかりにくいのではないかと思うのが「前沖もの」。これは青森県の八戸の沖合で漁獲され、八戸港で水揚げされるサバのことを指します。
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八戸沖約50kmの海域は、上記の千島海流の影響を受け、例年9~10月ごろにぐっと水温が下がるという特徴があります。本来はやや南寄りの温かい海域を好む魚であるサバにとってこの八戸沖合はやや水温が低いとみられ、その影響で身が締まり、脂がよく乗ったサバが獲れます。もちろん「ひがしもの」同様に、プランクトンが多い海域であることのメリットも受けています。
このように、沿岸ではなく「ちょっと沖合」のピンポイントの海域で獲れるサバであるため「前沖もの」と呼ばれているわけです。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>