新型は究極の「快適な移動の幸せ」をコンセプトに開発
4代目アルファード/3代目ヴェルファイアが登場した。新型の説明に入る前に、その足跡を振り返ってみたい。 ルーツはトヨタの“顔”のひとつといえるハイエースである。2004年に登場した現行モデルから商用メインになったが、それ以前は乗用ワゴンも設定され、当時は“ワンボックス界のクラウン”と呼ばれていた。
直接的な前身は、1995年に欧州の衝突基準を満たすためにセミキャブオーバー化された、欧州向けハイエースの乗用モデル、グランビア/グランドハイエースだった。アルファードは、その事実上の後継モデルとして2002年に登場した。
2008年に登場した2代目はアルファードに加えて、アグレッシブなマスクが与えられたヴェルファイアが新登場。この頃から、存在感たっぷりのスタイリングに広い室内スペース、そして豪華な装備が受け、芸能人や会社役員送迎車などビジネスユースとしても幅広く活用されるようになった。
2015年に登場した3代目はミニバンではなく大空間高級サルーン……つまり高級車の新たなカタチとして開発された。その人気は海外でも広まり、アジア圏を中心に輸出がスタート。現地では世界の名だたる高級リムジンと同じ扱いを受けるなど、日本以上のステイタスを確立する。正規の輸出はごく少数だったため供給が追い付かず、日本から多くが並行輸出されたそうだ。
そして、今回、待望の4代目/3代目が登場した。新型は“大空間高級サルーン”のコンセプトはそのままに、「性能を世界基準に昇華させる」ことを徹底的に追求した意欲作である。トヨタのクルマづくりの構造改革“TNGA”をフル活用してすべてを刷新した。
チーフエンジニアの吉岡憲一氏は「われわれが持つ“大空間の価値”と、欧州セダンに匹敵する“運動性能”が融合すれば、後席に乗る方はもちろん、ドライバーにも“快適な移動の幸せ”が提供できるだろうと考えました」と語る。
今度のヴェルファイアは個性と走りを追求したスペシャル版
正式発表前、「次期モデルはヴェルファイア廃止か⁉」というウワサが飛び交った。ヴェルファイアの販売台数が急速に落ち込んだ時期があったことや、トヨタの販売チャネル統合などの経緯を考えれば、そうしたウワサが出るのも無理はなかった。しかし新型も2シリーズ構成を堅持する。
吉岡氏は、「先代のMC後、ヴェルファイアの販売シェアは全体の5%を切る状態でした。確かに“アルファードと統合”という話があったのも事実です。そこに疑問を唱えたのは会長の豊田でした」と明かした。 そして豊田会長は「ヴェルファイアのお客様こそ本当に強いこだわりを持つお客様。その気持ちとブランドを大切にしてほしい」とアドバイスを送ってくれたのだという。
「先代を振り返ると、ヴェルファイアは“アルファードと異なるモノを作る”が目的になっていました。差別化はあっても、そこに本質的な価値の追求はありませんでした。そこで新型は素直にユーザーがカッコいいと思う“スタイル”とドライビングプレジャーを感じる“運動性能”を付加しようと考えました」と吉岡氏は説明を続けた。 その結果、新型はアルファードがスタンダード。ヴェルファイアは、付加価値を追求したスペシャル版というポジショニングに変化している。
2台のエクステリアは、より塊感を強調した堂々としたスタイルに仕上がった。ミニバンでは平板になりがちなサイドも造形の工夫により抑揚のあるフォルムを実現した。 ところで、アルファードとヴェルファイア、各々のデザインにはどのようなこだわりがあるのか? 執行役員デザイン領域・領域長のサイモン・ハンフリーズ氏はこのように語っている。
「先代はよくも悪くもアルファードがヴェルファイアに寄ってしまい、結果として個性が薄れてしまいました。新型ではアルファードは『フォーマル』、ヴェルファイアは『スポーティ』とキャラクターをシンプルかつ明確にしています」
インテリアの基本はキープコンセプト。だがフル液晶メーターに加えて、センターにレイアウトされた14インチの巨大ディスプレイの採用で、デジタル化が一気に進んだ。先代で多用されていたメッキはほとんど使われていない。新型はソフトパッド×木目の素材の吟味と各部の精度向上により、質感が大きくレベルアップした。 特等席ともいえる2列目は現時点では左右独立のキャプテンシートのみ。最上級グレードのエグゼクティブラウンジ用は、電動機能に加えてスマホのような液晶パネルでエアコンやオーディオの操作も可能だ。 先代は豪華な見た目の一方、ビリビリと振動が伝わり、体が上手に保持できない着座感/座り心地がウィークポイントだった。新型はビルの免振構造のような機構に加えて、シートパッドの作りを振動吸収と姿勢保持を適材適所で使い分けた。とにかく乗員に振動を伝えないことを心掛けたという。
新型はフットワークを大幅に洗練。ヴェルファイアは専用2.4リッターターボ搭載
パワートレーンはガソリン2.5リッターNA(2AR-FE/182ps)+CVTと、ハイブリッド(2.5リッター・NA(A25A-FXS/190ps)+モーター(フロント134ps/リア40ps)に加えて、ヴェルファイア専用2.4リッターターボ(T24A-FTS/279ps)+8速ATを設定した。
ハイブリッドは先代が車両重量に対してギリギリの性能だったが、新型は余裕が増して走りと燃費の両立が可能になっているそうだ。 ヴェルファイア専用2.4リッターターボは先代のV6・3.5リッターに代わる高出力ユニット。スペックは279ps/6000rpm、430Nm/1700〜3600rpm。従来のV6(301ps/361Nm)と比べトルクフルな特性はミニバンにはピッタリと予想する。 発表会ではPHEVの存在も公言された。実は先代と車両重量はそれほど変わっていないにもかかわらず、ホイールP.C.Dが114.3mmから120mmに刷新された点が気になっていた。高荷重・高トルク対応の足回り……というわけである。
新型はフットワークも大きく変わった。プラットフォームはGA-Kをベースにしたミニバン専用設計。ミニバンは大開口というウィークポイントを言い訳に“走りと乗り心地が難しい”といわれてきた。開発陣は世界の名だたるオープンカーはそんな言い訳なしに“運動性能”が実現できていることに着目。
ロッカーのストレート化、床下へのブレース追加、アンダーボディへの従来比5倍の長さの構造用接着剤の使用(剛性を高める個所といなす個所を2種類で使い分け)、さらに環状構造のボディ、カウル部分へのタワーバーのような構造の採用を通じて、ボディ剛性は従来比50%、フロントサスタワー/リアのホイールハウスインナーも従来比30%アップを実現した。
タイヤは17~19インチを設定するが、すべて新規で開発、サスペンションは周波数感応型ショックアブソーバーを一部を除き採用している。体幹を鍛えたボディのおかげで、足回りをしっかりと動かすセットアップになっているという。
新型の走りの味付けは、車種ごとに専用セッティングが施されている。アルファードがショーファーユースにも対応する快適性重視、ヴェルファイアは走りの楽しさを付加した。フォーマル、スポーティと明快にした両車のキャラクターは、走りの面でも重視されたことがわかる。
中でもヴェルファイアはボディを一段と補強(フロントにパフォーマンスブレース追加)している。サスペンションはショックアブソーバーの減衰力を高めに設定し、タイヤは全車19インチを装着する。さらに専用のEPS制御を導入し、操舵応答やライントレース性を高めた味付けだという。 開発時はヴェルファイア・オーナーのひとりでもある“マスタードライバー”ならぬ“マスターパッセンジャー”、豊田章男氏の指摘も多かったと聞く。つまり、豊田氏の意見は新型にしっかりとフィードバックされている。
価格は先代よりもアップしているが、これは初期の納車をスムーズに行うため上級グレード中心のラインアップになっているため。今後8人乗り仕様(2列目ベンチシート)や普及グレードの追加も予定されている。新型の購入を考えていたが、新型のラインアップを見て戸惑っていたユーザーは慌てず、急がず……。 アルファードとヴェルファイアは、日本が作り出した“究極のおもてなしクルマ”である。ミニバン嫌いの人も、ぜひ一度じっくり見てほしい1台だ。
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提供元・CAR and DRIVER
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