仕入先サプライヤーへの危機感の植え付け
トヨタ関係者の多くが26年にEV販売150万台とする計画を「絵に描いた餅」と見ていながら、計画を打ち出したのはなぜか。それは仕入先サプライヤーに危機感を持ってもらうとともに、株価を含めてトヨタの評価を引き上げる狙いがあるからだ。トヨタが全方位戦略を打ち出していることから、エンジン系や燃料系など内燃機関関係部品を主力とするトヨタ系サプライヤーは危機感に乏しいとされている。これに対して40年に内燃機関からの撤退を打ち出しているホンダを主力とするサプライヤーは、EVシフトに伴う影響を真摯に受け止め、強い危機感を抱き、自動車以外の新規事業などにも熱心で、本気で取り組んでいる。
世界的にEVシフトの波が押し寄せているなかで、トヨタもこのままではグループもろとも生き残れなくなることを懸念している。そこで「EVファースト」を打ち出し、仕入先にも今のうちから対応を促す必要性に迫られている。ただ、EV一辺倒にすることは、豊田会長の方針に背くことになる。このため、全方位戦略は堅持しつつEV販売を急激に伸ばす販売計画を公表するという、一見矛盾した方針を打ち出すことになった。
さらに、EVの大胆な販売計画を公表することで、株価など市場の評価を高めたい思惑もある。全方位戦略は研究開発や設備などの投資が分散され、効率が悪い。世界中の自動車メーカーがEV重視を鮮明にしているなか、EVで出遅れており全方位戦略を堅持するトヨタの成長に疑念を持つ投資家は少なくない。世界販売台数が1000万台のトヨタが、世界販売130万台のテスラに時価総額で大きく負けているのは、この表れだ。トヨタはこうした状況を打開するため、EV販売台数を短期間に急激に増やす計画を公表したと見られている。
経営陣の交代を機に「EVに否定的」「EVに出遅れている」という従来イメージの払拭を狙う佐藤トヨタ新体制。しかし、テスラでも世界販売2万台から130万台になるまで9年を要した。異業種を含めてライバルもひしめくなか、トヨタが短期間で成果を出せるほど自動車産業は甘くない。さまざまな思惑が交錯して無理な計画を打ち出したとしたら、3年後にそのツケを払うことになりかねない。
(文=桜井遼/ジャーナリスト)
提供元・Business Journal
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