そのため、モーセはイスラエル人が考え出した仮想の人物ではないか、といった憶測さえある。また、イスラエル人は「出エジプト」をしたのではなく、パレスチナ人が住んでいた地域で少数民族だったが、民族の威信を高揚するために「エジプトの地から出国してカナンに入った」という神話が必要だったのではないか、という学説を唱える考古学者もいるという。
イスラエル人にとって聖書の人物ではダビデ王が最も尊敬されているが、モーセはダビデ王に次いで人気がある。ちなみに、ダビデ王が実際に生存していたのかは久しく考古学者の間で議論されたが、ダビデ王の居住地と思われる遺跡が発見されて、ダビデ王が実際に生存していた人物であったことが証明された。しかし、モーセに関連する遺跡(墓を含む)はいまだ発見されていないのだ。モーセの「出エジプト」に関連する遺跡が発見されれば、最大の考古学的発見となることは疑いないだろう。
ちなみに、独週刊誌ツァイト18日(オンライン版)によると、ユネスコのサウジ会合でドイツのテューリンゲン州の首都エアフルトにあるユダヤ中世遺産が世界文化遺産リストに追加されたと報じていた。新しい世界遺産には、旧シナゴーグ、ミクヴェと呼ばれる中世の儀式用浴場、エアフルト旧市街にある歴史的な住宅建築であるストーンハウスが含まれている。ドイツのユダヤ文化遺産が世界遺産に認定されたのは2度目だ。
エアフルトの旧シナゴーグは1094年に建設が始まり、屋根まで保存されている中央ヨーロッパ最古のシナゴーグの1つと考えられている。1349年のポグロムの際、シナゴーグ周辺のユダヤ人地区が放火され、約1000人のコミュニティメンバー全員が死亡した。その後、シナゴーグは倉庫に改装され、19世紀後半からはレストランとダンスホールとして使用された。1998年にエアフルト市がこの家を購入し、改装し、現在は博物館だ。中世のエアフルトでのユダヤ人の生活状況が展示されている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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