イラン当局は一時、風紀警察を路上から撤退させたが、7月頃から風紀警察が再び路上で監視する姿が目撃されてきた。イラン出身のジャーナリスト、シュウラ・ハシェミ女史は、「風紀警察はここ数カ月、テヘランなど都市からは姿を消していたが、再び登場してきた。風紀警察には多くの女性警察官も働いている。路上でスカーフを正式に着用していない女性を見つけたならば、白色の連行車に連れていき、拘束するなど、再び路上で強権を発揮してきている」と説明している。
イラン各地の抗議デモは女性の権利やスカーフ着用問題にとどまらず、イスラム革命以来続くイスラム聖職者による支配体制の転換を要求し、反体制派グループも加わって、激しくなってきている。抗議デモでは「聖職者支配体制を打倒」、「独裁者に死を」といった過激なシュプレヒコールが響き渡る。
イラン当局が女性のヒジャブ着用を重要視するのは、44年間のイランの聖職者支配体制にとってヒジャブ着用が政治的シンボルとなっているからだ。ヒジャブの着用で一旦譲歩すれば、イスラム教統治体制が崩れていくことを知っている。イラン当局には弾圧を強化する以外に他の選択肢がないのだ。
オーストリア国営放送は13日、「世界ジャーナル」というドキュメント番組で「一年、女性、人生、自由」というタイトルで「アミ二さん1周忌」について報道していた。そこではイランの若い女性たちが「イスラムの教えのどこに女性蔑視の思想があるのか」と訴えていたのが印象的だった。
ちなみに、風紀警察は2006年、超保守派のマフムード・アフマディネジャド大統領の下で設置された。曰く、「品位とヒジャブの文化を広めることを目的」としてきた。風紀警察はイラン社会では常に物議を醸すテーマだった。イランの女性は1983年以来、スカーフを着用しなければならない。
イランの状況は何年にもわたって不安定であり、特に経済危機が現在の抗議行動の「触媒」となっている面は否定できない。イランの経済専門家マフディ・ゴー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「国民はますます貧しくなる一方、イスラム政権トップの腐敗と汚職、縁故主義が広がっている。国民の約3分の1が絶望的な貧困の中で生活している。通貨リアルは価値を失い続け、多くの人が失業している」という。
その一方、イラン国内でミリオネアの数が増加して、米国の経済雑誌「フォーブス」が2021年に報じたところによると、その数は25万人にもなるという。すなわち、イラン社会で貧富の格差が広がっているわけだ。
イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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