「反覇権」は特定の国や地域を念頭に置いたものではなく普遍原則であり、日本、中国それぞれの外交スタンスを拘束しないということを明確にしたわけである。
しかしながら、今日における「習近平の中国」は、かつて敵対した旧ソ連(ロシア)と同じく明らかに「覇権」そのものである。ウイグル、チベット、南モンゴルにおける人権弾圧、台湾に対する軍事的威嚇、さらに尖閣諸島周辺海域への中国公船による領海侵犯も日常茶飯事化し、中国において罪なき日本人が拘束されるというケースも相次いでいる。
昨年(2022年)8月の台湾近海における軍事演習では日本のEEZ(排他的経済水域)内に5発のミサイルを落下させた。「反覇権」の条文は死文化、同じく日中平和友好条約に謳われる「善隣友好の精神」は形骸化していると断ぜざるを得ない。
1974年4月、当時、中国副首相だった鄧小平は第6回国連特別総会の一般討論演説で「もしも中国がいつの日か変節し、超大国となり、しかも世界の覇権を握り、そこらじゅうで他国をいじめ、他国を侵略し他国から搾取するようになったら、その時には、世界の人民は中国のことを『社会帝国主義だ』と非難し、中国の悪事をあばき、中国に反対し、そして中国人民と協力して中国を打倒すべきです」と訴えた。その模様はYouTubeで見ることができる(日本語字幕入り)。
この鄧小平の主張に従えば、「習近平の中国」は明らかに国際社会にとって「打倒すべき」対象ということになる。
「習近平の中国」に「恒久的な平和友好関係」など、とても期待できない。毅然と中国に対峙していく覚悟が求められよう。
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丹羽 文生(にわ ふみお) 1979(昭和54)年、石川県生まれ。東海大学大学院政治学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(安全保障)。拓殖大学海外事情研究所助教、准教授を経て、2020(令和2)年から教授。この間、東北福祉大学、青山学院大学、高崎経済大学等で非常勤講師を務める。現在、拓殖大学政経学部教授、JFSS理事、岐阜女子大学特別客員教授。 著書に『評伝 大野伴睦:自民党を作った大衆政治家』(並木書房)、『「日中問題」という「国内問題」戦後日本外交と中国・台湾』(一藝社)、『日中国交正常化と台湾:焦燥と苦悶の政治決断』(北樹出版)、等多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年9月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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