今世間では、タワマン節税が税制改正によって封じ込められるとの話で盛り上がっている。発端は、今年1月に行われた国税庁の有識者会議において改正の方針が固まったとの報道だった。不動産を所有するとかかる税金の代表的なものが、固定資産税、都市計画税および相続時に発生する相続税だが、今回の改正の目玉は相続評価額のやり方、考え方に大幅な変更を加えようとするものだ。相続税評価額の計算は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額による。路線価はおおむね公示価格の8割相当、固定資産税評価額が7割相当なので、やや高めに設定されているが、昨今のように不動産価格が急上昇しているような場合、時価との乖離は大きくなる。

ここで問題となったのがタワマンに代表されるマンションだ。国税庁の資料には、東京、福岡、広島でのマンションの実例が掲載されている。東京都内にある43階建てのタワマンの実例。23階67.17平方メートルの住戸の実勢価格(時価)は1億1900万円。ところが相続税評価額を算出すると価額は3720万円。なんと実勢価格は評価額の3.2倍にもなっている。相続人が子1名とすると、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)3600万円を引くと課税価格は120万円。マンションだけが相続財産だとすれば、税金はわずか12万円(税率10%)となる。

同資料では福岡のマンション(築22年、9階建ての9階部分、78.2平方メートル)での実勢価格との乖離が2.36倍、広島のマンション(築6年、10階建ての8階部分、71.59平方メートル)で2.34倍などと実例を示しながら、相続税評価額が実勢価格と乖離しているさまを掲げている。

マンションでの乖離率の平均は2.34倍といわれている。つまり時価1億円のマンションであれば評価額は4273万円(1億円÷2.34)になる。タワマンに限らず、マンションは現金で持つよりもはるかに税負担の少ないいわば金融商品のような役割を持ってきたことがわかる。そこで今回予定されている改正では、実勢価格との乖離率が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価することになった。「相続税評価額×乖離率」でいったん実勢価格に調整しなおしてから0.6掛けする根拠には一応の理屈がある。戸建てにおける平均乖離率は1.66倍であるからだ。戸建てと同じ水準の乖離率ならオーケー。それ以上の場合はいったん時価に戻してから、戸建てと同様の調整を掛ける、つまり1÷1.66=0.6だから、これによって戸建ての場合との格差を是正しようとしたのである。

富裕層にとってはまさに「寝耳に水」

この改正が適用されるのは2024年1月1日以降、相続や贈与によって取得する財産だ。注目すべきはタワマンだけが対象ではなく、マンションの場合のすべてが該当することだ。ここで困った問題が発生した。時価と評価額の乖離に着眼して相続税対策を行ってきた人たちだ。これまで時価の3、4割に評価額が圧縮されることによって、大きな節税が実現できるはずだった富裕層にとってはまさに「寝耳に水」ともいえる改正だ。

さきほど掲げた東京都内のタワマンを例にとると、乖離率は3.2倍であるから

・3720万円×3.2×0.6=7142万円
・課税評価額:7142万円-3600万円(基礎控除)=3542万円
・相続税:3542万円×20%-200万円=508万円

なんと496万円、42倍もの大増税ということになる。「父さん(母さん)死んでも税金は大丈夫」と思っていた相続予定の人たち(息子や娘)には計算外の増税である。今年中に亡くなってくれれば想定内だが、まさか「今年死んでくれ」とはならない。相続税対策のやり直しを迫られる世帯が急増するだろう。不満をぶちまける富裕層や関係者の声に対して国は冷ややかだ。「これは増税ではなく、税負担の公平性を担保するものだ」というのが理屈だ。