紳士の皆さんは金欠で懐が寂しいときでも、愛する恋人に何とかプレゼントを渡したくて奮闘するのではないでしょうか?

実はクモの世界でも事情は同じなのですが、しかし彼らの場合はちょっとズルい方法を使っているようです。

南米に生息するオスのサシアシグモは通常、メスへの求愛の印として、自らの糸で包んだごちそうを贈るのですが、食糧難に陥ると中身の空っぽなプレゼント包装だけを渡すのです。

私たちが同じことをすると確実に怒られますが、クモは大丈夫なんでしょうか…?

研究の詳細は、2023年7月27日付で科学雑誌『BMC Biology』に掲載されています。

オスがプレゼントの中身をサボる理由とは?

南米ウルグアイとブラジルに分布するサシアシグモの一種(Paratrechalea ornata、以下P. オルナタと表記)は、交尾前になるとオスがメスに餌のプレゼントをします。

これは「婚姻贈呈(Nuptial gift)」といって、ヒトを含む多くの生物に見られる行動です。

例えば、ある種の蝶のオスは精子と栄養の混ざったものをメスのパートナーに渡し、スズメの仲間であるオオモズは捕獲したトカゲやネズミを与え、コオロギには自分の羽をメスに食べさせて、傷口から出た液体を吸わせるものがいます。

P. オルナタのオスも求愛に際して、糸で包んだ昆虫の餌をメスに与えることが知られていました。

こちらはP. オルナタが婚姻贈呈をする実際の画像です。

P. オルナタの婚姻贈呈(モザイク加工しています)
Credit: Flinders University – When climate changes affect mating games(2023)

※画像はクモが苦手な人に配慮してぼかしています。ぼかしなしはこちら。

研究主任でウルグアイ共和国大学(UdelaR)の生物学者マリア・アルボ(Maria Albo)氏によると、オスは捕まえた餌を糸で包んで小さなボール状に包装した後、それを咥えたまま、生息地である水辺を歩いてメスを探し始めるという。

パートナーが見つかれば、その包みをプレゼントし、メスが糸を食べて開封している間に、オスはメスの背に乗って交尾を済ますのです。

こうした行動をこの種が取る理由の1つは、クモは交尾後にメスがオスを食べてしまう事があるため、それを防ぐ目的と考えられます。

ところがこれまでの研究で、P. オルナタのオスの中に、立派なごちそうを準備する手間を省く個体がいることがたびたび観察されてきました。

彼らは捕まえた昆虫を包むのではなく、その辺で拾った落ち葉や自分の食べ残しを包んだり、さらには中身の空っぽの包装だけをプレゼントするとんでもないオスもいるのです。

これはもともとこの種がメスへプレゼントを渡している目的から考えると、奇妙な行動です。

そのためアルボ氏らは、これがオス側にやむを得ない事情があるためではないかと考えました。

そこで、豪フリンダース大学(Flinders University)と協力し、環境に大きな違いあるウルグアイの2つの地域でクモたちの行動を調査したのです。