企業倫理的な問題

 IT企業役員はいう。

「JRのSuicaや各種ポイントサービスのように、取得した利用者データを個人を特定できないかたちに加工して外部へ提供することは、一般的なビジネスとして広く行われている。今回の渋谷プロジェクトの運営サイドも、個人情報保護法など法律に抵触しないかどうかは事前にチェックしているだろうし、取得した画像データが直接的に個人の特定につながるわけでもないので、明確な法律違反というわけではないだろう。

 ただ、年代や性別、所持品、同伴者まで特定された上で、いつ、どこに行き、どれくらい滞在して、何をして、さらに、そこに行ったのが今年で何回目なのかという通年の累積データまで取得しているとなれば、取得された側が『これって、私だということがバレますよね』と感じるのは当然。『勝手に私の個人情報を取得するな』と異議を申し立てる権利は保障されるべきだろう。

 一企業が自社店舗前や店舗内の人流データを取得して、自社内でのみマーケティングなどに活用するのであれば問題ないが、今回の渋谷プロジェクトでは駅周辺の広いエリアに100台ものカメラを設置し、膨大な数の人のデータを取得して、当人の許可なく企業などにそれを提供するということなので、話の次元が違ってくる。法律的な問題もさることながら、広義の意味でのプライバシー侵害という問題は出てくるだろうし、いくら『まちづくり』を謳っていても、一企業が個人情報やプライバシーの保護という機微な問題に触れるかたちで、多くの一般人の気分を害する行為を行うことは企業倫理的な問題をはらんでいるともいえる」

 ITジャーナリストの山口健太氏はいう。

「近年、AIやIoT技術を都市で活用する『スマートシティ』の構想が進んでおり、AIカメラによる画像解析を事故防止や混雑緩和に役立てる事例が出てきています。通行人の数のように、個人を特定できる情報でなければ同意を取ることなく分析や活用ができると考えられます。

 このプロジェクトでは、個人を特定できる情報は含まないと発表していたにもかかわらず、当初のウェブサイトにはあたかも個人を特定して渋谷での行動データを蓄積していくかのような記載がありました。もしそうであれば個人情報に該当する可能性があり、個人情報保護法に従った取り扱いを求められます」

 渋谷プロジェクトでのデータ収集は、事実上の個人情報の収集・追跡に該当するのではないかという指摘や、もし仮に情報漏洩事故が生じた場合に、画像データを伴うかたちでの個人情報漏洩が起きる懸念があるとの指摘もみられるが、山口氏はいう。

「AIカメラのような技術はうまく使えば社会全体に有用ですが、プライバシー侵害などの懸念があります。そこで、どこまでならOKか、どこからがNGなのかルールを決めることで、個人情報を安心して活用できる環境を整備するのが個人情報保護の基本的な考え方といえます。

 そのルールの範囲内であれば、個人情報を営利目的で活用することに問題はありません。しかし、今回のように公共の場所で個人の顔を識別することについての社会的な合意は進んでおらず、過去に『炎上』を繰り返しています。このままでは渋谷という街全体のイメージダウンにもつながりかねません。

 公共の場所では『嫌なら来るな』というわけにもいきません。AIカメラで撮影していることや利用目的を分かりやすく周知すると同時に、撮られたくない人への配慮が行き届いているかどうかも重要と考えます」

 当サイトは本プロジェクトの問い合わせ窓口となっているIntelligence Design株式会社に見解を問い合わせ中であり、回答を入手次第、追記する。

(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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