処理水の放出は、いろいろな意味で福島第一原発の事故処理の一つの区切りだった。それは廃炉という大事業の第1段階にすぎないが、そこで10年も空費したことは、今後の廃炉作業の見通しに大きな影響を与える。
本丸は「デブリの取り出し」
廃炉の最大の難関は水処理ではなく、格納容器の底にたまった核燃料のデブリの取り出しである。まだ原子炉の中には入れないので、今年1月に水中ロボットによる内部調査が再開され、デブリを1gぐらい採取したというが、燃料とその周辺の廃棄物は全体で880トンある。

ロボットアームで持ち上げたデブリ(東電撮影)
事故から12年たってこの状況では、東電の「30年で廃炉を完了する」という目標が達成できる見込みはない。今の調子でやっていると100年以上かかり、そのコストは数十兆円になるだろう。
取り出したデブリは危険な高レベル放射性廃棄物だが、置き場所も決まっていない。そもそも何のために取り出すのかという目的がわからない。
技術的には、発電所の中に閉じ込めたまま蓋をするチェルノブイリのような石棺方式(閉じ込めシェルター)で十分だ。しばらくは冷却水を循環させる必要があり、モニタリングも必要だが、デブリの状態は安定しており、取り出しよりはるかに安全である。

チェルノブイリ原発の石棺(WSJ)
シェルターのコストはチェルノブイリでは3000億円程度だったが、福島は3基あるので、1兆円ぐらいかかるだろう。それでも今の廃炉費用8兆円よりはるかに安い。難点は大量の冷却水が出ることだが、これは海洋放出で解決する。