生き物が減り「砂漠化」が進む各地の干潟。かつてのような生き物の楽園として復活させるために効果的とされたのが「干潟に溝を掘る」ことでした。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
有明海で「澪を掘り返す」工事が実施
有明海に面した佐賀県佐賀市川副町で先月、海底の溝にたまった土砂を掘削する浚渫工事が市によって実施されました。
この浚渫工事は、同市が国と県の補助を受けて、川副町の海岸に近い2か所で実施しました。同市では過去にも同様の工事が実施されており、2022年度には2、3kmほど沖合で、全長約910m幅30mほどの範囲の土砂を、平均で深さ約1m分除去しています。
今年度はより陸地に近い場所で、より大きな範囲で実施予定とのことです。
潮の流れを復活させる
一般的に、この手の浚渫工事は、港内などの船の通り道が埋まってしまうことを防ぐために行われます。しかし今回の工事は船道ではなく「潮の通り道」を整備するために行われたものです。
川底や海底では早い流れが「澪(みお)」と呼ばれる溝を作るのですが、近年の有明海では土砂の堆積が進み、澪が埋もれつつある状態でした。これを掘ることで、潮の満ち引きの際に流れる海水の量が再び増えれば、湾奥部に逗留する海水が減ります。
それにより、湾奥部に栄養がたまりすぎてしまうことがなくなり、最終的には赤潮の発生が抑えられます。結果として有明海最大の漁業生産物であるノリの収量が増えるのです。
このような「澪を整備して深さを確保する工事」は専門用語で「作澪工(さくせいこう)」と呼ばれます。
干潟をよみがえらせる作澪工
有明海をはじめ、瀬戸内海や東京湾など干潟が多い海域は、干満の差が大きく潮の流れが速くなっています。しかし近年、干潟の埋め立てが進んだ結果、干満の差によってできる潮流が以前と比べ弱まってしまっています。
干潟はもともと河川などから流入する栄養塩が豊富なため、貝類をはじめとしたさまざまな海産物をはぐくむ「海の畑」と呼ばれます。しかし、潮流が弱まった結果栄養塩が河口周辺に偏り、プランクトンの大発生を招き、赤潮が発生しやすくなってしまいました。
結果としてこれらの海では生き物の姿が見られない「砂漠」のような干潟が多くみられるようになっています。「作澪工」は、このような干潟をよみがえらせる手法としていま注目を浴びているのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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