「一度決めたことを変えるのが難しい」ASDの“特性”

宮沢氷魚が演じた「ASD画家」のリアル…発達障害当事者は「変わる」ことはできるのか?
(画像=『Business Journal』より 引用)

葛 里華(かつ・りか/写真左)
1992年、愛知県生まれ。慶応義塾大学に入学後、映画サークルに所属し、映画制作を開始。同大理工学部を卒業後、出版社に勤務。マンガ編集者として働くかたわら、映画製作も続け、2019年には監督・脚本・編集を手がけた『テラリウムロッカー』を制製作する。同作はカナザワ映画祭を始め、MOOSIC LAB 2019や知多映画祭など多くの映画祭に入選。初の長編作であり脚本も務めた『はざまに生きる、春』は、商業映画デビュー作ともなった。

岩波 明(いわなみ・あきら/写真右)
1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の診療にあたり、現在、昭和大学医学部精神医学教室主任教授にして、昭和大学附属烏山病院の病院長も兼務。近著に、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)、「これ一冊で大人の発達障害がわかる本」(診断と治療社 )などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。

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岩波 監督がお好きだった彼は、監督と交流する中で、少しは変わっていきましたか?

 少しずつですが、変わりはしましたね。ただ、私も当時はまだ本当に若くて人間ができていなかったせいもあり、「なんでわかってくれないの!?」みたいになってしまいがちで……。

 例えば、「この時期は忙しいから連絡とれないよ」と相手に言われると、「わかった、待つよ」って答えるんですが、でもやっぱり待てなくて、「連絡が欲しい!」みたいなことを言ってしまう(笑)。そうすると発達障害特性のある彼は、「『待つ』って言ったのにこの人は約束を守らない、大人じゃない人だな」と、ストレートに解釈してしまう。相手の気持ちをくむのが苦手ですから、「連絡が欲しい!」という言葉の裏にある“寂しい”という気持ちが伝わらないんですよね。ただ、確かに私も「待つよ」とは言ったな……となり、「はい、私が悪いです。申し訳ありません」みたいなことも多発してしましたね……(笑)。

岩波 ASDの方の特性として、一度決めたことを変えるのが難しい、というところはありますね。恋愛の話ではないですが、障害者雇用で働いている患者さんで、仕事上の突発的な変更が強烈に苦手な方がいました。「なぜ予定と違うことをやらないといけないのか」と怒るんです。僕がしつこく、「仕事なんだからそういうこともある。上司に言われた通りやらないとダメですよ」と繰り返し言っていたら、少しずつ変化はしていかれましたが。

 わかります。彼も、「できるだけ連絡が欲しい」という私の希望は頭に残っていて、忙しいときでもたまに連絡はくれるようになりました。でもその内容がまた、私にとってはよくわからないものだったりして、「全然わかってない!」と当時は思ってましたが……(笑)。でも振り返ってみれば、彼は、確実に変わってくれてはいました。

岩波 「なかなか変われない」と見るか、「ちょっとずつは変わる」と見るか、というところなんでしょうね。

 そうですね。そのときに、「私は“自由な彼”が好きだったはずなのに、どうしてそんな彼に『変わってほしい』なんて思っているのだろう。私、めちゃくちゃエゴイスティックだな」と思ったんです。同時に、彼は彼なりに変化しているはずなのに、それに気づけていなかったことにもすごくショックを受けて。近づきすぎるとどうしても「わかってほしい」「変わってほしい」と勝手に求めて勝手に落ち込んで、「もう嫌い!」みたいになってしまっていました。

 そういうのをやめたくて、考えた末、彼とも話し合って、「恋人じゃなくてもお互いを好きでいられる距離感を見つけ合おう」ということになりました。今でも連絡は取りますし仲良くしています。もし今出会っていたら違っていたかもしれませんが、そのときの私の選択としては、それがベストだったと思っています。

岩波 その頃から時間が経って今回の映画『はざまに生きる、春』もつくられて、当時と今とで、発達障害に対する監督のとらえ方は変化されましたか?

 変わりました。映画をつくる前は、私自身が悩んでいたこともあって、「人なんて変わらない」とずっと思っていたんですね。どうせ人は変わらない、あるいはネガティブな意味でだけ「すぐ変わっちゃう」って。「変わる」という言葉を、そういうふうにとらえていた。

 でも、当事者の方たちやそのご家族にもたくさん取材させていただいて映画をつくっていくうちに、ポジティブな意味で「人は変われるかもしれないし、変わらない部分もあるかもしれない」と思えるようになりました。同時に、発達障害の方に対しても、「この人はどうせ変わらないんだ」と、勝手に枠に当てはめていたんだな……と考えるようになりました。

「どんな相手であれ、違う人間同士だからわかり合えないんだけれど、だからこそ互いに信じ合って、一緒に生きていくのかな」という、私の中の今の結論を、『はざまに生きる、春』には詰め込んだつもりです。

(構成=斎藤 岬)

宮沢氷魚が演じた「ASD画家」のリアル…発達障害当事者は「変わる」ことはできるのか?
(画像=、『Business Journal』より 引用)

『はざまに生きる、春』
仕事も恋もうまくいっていない雑誌編集者の小向春(演:小西桜子)は、「青い絵しか描かない」こだわりをもつ画家・屋内透(演:宮沢氷魚)を取材することとなる。周囲の空気ばかり読み続けてきた春は、発達障害の特性から嘘がつけない透の自由さに強くひかれていくが、一方で、相手の気持ちをくみとることのできない透に振り回されることも増えていき――。

監督・脚本:葛里華 出演:宮沢氷魚、小西桜子ほか 配給:ラビットハウス

提供元・Business Journal

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