ネコの特殊な「家畜化」
他の家畜動物に比べ、ネコの遺伝子変異が少ない理由は、人間とネコの関係性にあると言われています。
人間は、穀物をネズミから守るためにネコと暮らし始めましたが、ネコに求められた「ネズミを狩る」という行動はネコに元から備わった本能です。
イヌのように特定の動物を襲うような複雑な指示をされるわけでもなく、ネズミが多くいる場所に連れて来られただけで、ネコの認識としては自由に狩りをしているに過ぎません。
ネコにとっては「人間と一緒に暮らす=ネズミの多い場所に住める」といった感じで家畜化というよりはただの「利害の一致」だったのでしょう。
リビアヤマネコが体重5㎏程度と小さく、そもそも人間を襲うような生き物ではなかったことも大きな要因と考えられます。
ネコは人間と暮らす上で、あまり「変わる必要がなかった」のです。
ネコは家畜化してどう変わったか?
とはいえ、遺伝子変異に現れている通り、もちろんネコにも家畜化によって変わった部分があります。
ただ、他の家畜動物の多くが「人間が利用しやすいように」変化しているのに対し、ネコの場合は少し事情が異なっているようです。
まず1つめの変化は「脳の萎縮」です。
イエネコの脳はリビアヤマネコと比べるとかなり頭蓋容積が小さいことがわかりました。
これはイヌやウサギといった他の家畜動物でも見られている傾向です。
家畜動物は人間からある程度安全な環境が与えられることで、他の動物に襲われる危険性や必死に狩りを行う必要性がなくなるため、脳が萎縮すると考えられています。
また、ネコが家畜化したことでもっとも大きく変化したのが鳴き声です。
大人のヤマネコは捕食者や餌となる小動物に気づかれないようにほとんど声を出すことがありませんが、イエネコは大人になってもよく鳴きます。
鳴き声の音もイエネコはヤマネコと比べて短く高くなっていて、人間にとって心地の良い音に変化しています。
また、ネコが甘えて「ぶるるんぶるるん」と大きく喉を鳴らすとき、その音は人間の赤ちゃんの泣き声と似た周波数帯です。
人間はこの周波数帯の音を聞くと「助けてあげなくちゃ」という本能が働きます。
つまり、家畜化の過程でイエネコは人間を効果的に動かすための鳴き声を習得しているのです。
ネコの家畜化は人間を動かして暮らすための「進化」なのかも
かつてはネズミ捕り目的で飼われていたネコですが、今やほとんどが愛玩目的で飼われています。
自分がネズミを狩るよりも、人間から食料を得た方が簡単と知ったネコは人間を動かすための鳴き声を会得し、結果的に脳が萎縮しても全く問題ないくらい平和な生活を送れているのです。
イエネコへの遺伝子変異はもはや人間が動物を利用するための「家畜化」ではなく、ネコが人間を動かして生きていくための「進化」と言えるのかもしれませんね。
参考文献
Cats first finagled their way into human hearts and homes thousands of years ago—here’s how
The genetics of domestication
元論文
Mitochondrial diversity of native pigs in the mainland South and South-east Asian countries and its relationships between local wild boars
The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet
Comparative analysis of the domestic cat genome reveals genetic signatures underlying feline biology and domestication