第105回全国高校野球選手権記念大会、通称「夏の甲子園」は8月21日に準決勝が行われ、宮城県代表の仙台育英高校と神奈川県代表の慶應義塾高校(以下、慶応)が決勝戦にコマを進めた。
両校は今春の選抜高等学校野球大会でも顔を合わせており、その際は仙台育英が2対1の僅差で慶応を下している。そのため、慶応がリベンジを果たして107年ぶりに深紅の大優勝旗を手にすることができるのか、逆に仙台育英が返り討ちにして史上7校目の連覇を達成するのか、関心が高まっている。
特に慶応はグラウンド外でも多くの耳目を集めており、“非坊主”はこの夏のトレンドワードのひとつといっていいほど、甲子園期間を通じてSNS上で頻繁に登場している。慶応以外にも球児たちに丸刈りを強いていない高校はあるが、慶応は全国でもっとも古くから非坊主を貫いている高校といえる。「エンジョイ・ベースボール」をモットーとし、選手の自主性を重んじる慶応野球部は、最近の流行りや時代の流れに乗って非坊主にしたわけではないのだ。
だが、甲子園を聖域化し、伝統的な坊主頭の球児を希求する野球ファンも根強い。そんな野球ファンにしてみれば、長髪の選手が多い慶応は浮ついて見えるのか、批判的な声が非常に多い。実際にX(旧Twitter)を見てみると、<慶応 嫌い>といったワードが湯水のごとく湧き出てくる。その理由は髪型のみならず、慶応躍進の原動力のひとつともいえる大応援団の声援がうるさい、金銭的に裕福な家庭のボンボンが金にモノを言わせて勝ち上がっている、といった嫉妬とも取れる穿ったものが大半だ。
なかでも“慶応高校の生徒はセレブの子”、“慶応野球部の選手はスポーツ推薦でより集められた”など、憶測で語られているような発言には注意が必要だ。慶応高校野球部OBに話を聞いた。
「まず、慶応高校に通う生徒がセレブの子、という点について、セレブの家庭の子が多いのは事実ですが、全員がそうではありません。確かに、幼稚舎(小学校)から上がってくる人は裕福な家庭の人がほとんどです。とはいえ、小学校、中学校、高校と私立に通う人は、全国どこであっても、ある程度裕福な家庭ではないでしょうか。芸能人の子や著名な実業家の子が多く入学していることから、“セレブじゃないと入れない”といった噂が流れていますが、実際は会社員の家庭の子も多くいます」
スポーツ推薦についても、間違っているという。
「慶応にはスポーツ推薦の入学枠はありません。入試制度は一般入試、帰国子女入試、推薦入試の3つで、付属中学からの進学を除くと、入試を経て入学した生徒しかいません。また、どんなに才能があっても、特別扱いされないのが特徴です。そのあたりは、甲子園に出場している他の多くの私立野球強豪校と一線を画す部分だと思います。今夏の甲子園で注目されている元プロ野球選手の清原和博氏の次男、清原勝児選手でさえも、成績不振で留年しているくらいです」
では、実際に慶応野球部は、他校に比べてお金がかかるのか、比べてみよう。
入学金は34万円、授業料は76万円、その他22万1000円で、初年度納付金合計は132万1000円となっている。在学生納付金は合計98万1000円だ。同じ神奈川県内の私立高校、桐蔭学園高校はどうか、入学金は20万円、授業料は53万4000円と慶応より安いが、その他に52万6000円の費用がかかり、初年度納付金合計は136万円となっている。
神奈川県の私立高等学校等生徒学費補助金や、国の高等学校等就学支援金といった補助金を利用すれば、一般的な家庭も通うことは可能な学費の範囲といえる。
また、野球部の部費はいくらか。
「野球部の部費は年間8万円です。ただし、毎週土曜と日曜、休日には練習試合が組まれていて、その遠征費は実費がかかります。さらに年間数回、合宿があるのですが、それらを合わせると、30~40万円はかかっていると思います。
とはいえ、一般的な高校の運動部でも部費8万円は高くないほうですし、甲子園を狙うレベルの高校としては、毎週の遠征費や合宿代も当たり前といえる範囲です」
慶応の森林貴彦監督が、あるメディアの取材に対して「(慶応野球部に入部するためには)経済的なハードルもある」と語ったことで、“慶応は金がかかる”といった印象が加速した可能性もあるが、実際には一般的な私立高校と大きな差はないといえる。
他方、慶応と仙台育英はユニフォームが似ていることも話題となっている。仙台育英の仙台育英の加藤雄彦校長が、慶応の中学、高校、大学の出身で、母校と同じデザインにしたからだという。
22日10時に発売された決勝戦のチケットは、わずか1時間ほどで完売したという。特に慶応の応援席である3塁側は数分で売り切れた模様で、転売サイトでは10倍以上の値段で売買されている。
因縁浅からぬ両校の決勝戦は、大いに盛り上がるに違いない。
(文=Business Journal編集部)
提供元・Business Journal
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