マツダ・ロードスター 価格/268万9500〜398万8600円 試乗記
軽さがもたらす価値を実感。まさに意のままのドライブフィール
マツダ・ロードスターの基本理念は、1989年に登場した初代モデルから現在まで一貫している。開発陣が追い求めたのは、「究極の人車一体感」。スポーツカーだからといって大きなパワーに頼ることなく、むしろ多くのライバルが陥りがちな「重厚長大」路線と対峙するようにして、そのコアバリューを追求してきた。これこそが、まさにロードスター最大の美点であり個性である。ロードスターはすでに33年の歴史を誇るが、人車一体感については、どの世代もいささかのブレはない。
ところでロードスターは、いつの時代もスペックを眺めているだけでは、魅力が見えてこないクルマでもある。
最新モデルの場合、ラインアップの主流となるソフトトップに搭載されるエンジンは、排気量わずかに1.5リッターの自然吸気4気筒ユニット。その最高出力はたったの132psにすぎない。RFと名づけられたリトラクタブルHTモデルが採用する2リッターユニットであっても184psだ。現在のスポーツカーの水準で見れば、「他愛ない」とさえいわれかねないデータである。
しかし、これらの事柄が魅力を削ぐポイントかと問われれば、「そうした印象は1mmたりともない!」と即座に断言できる。
いざスタートすると、アクセルペダルの踏み加減によって得られる加速力は必要にして十分。スポーティさに溢れている。確かに、決して「背中をバックレストに押さえつけられる」という形容が当てはまるレベルではない。だが、ドライバーはペダル操作に対する十分に敏感なレスポンスと、耳に届く快音が楽しめ、MT仕様の場合には「すべての動きを自分でコントロールしているんだ」という実感が追加される。ドライバーを主人公にした一連の走りのテイストが、「スポーツカーを操っている」という満足感を色濃く引き立ててくれるのである。加えて、絶品のコーナリング時の軽やかな身のこなしが気分を盛り上げる。車重が絶対的に軽いことに加え、重量物を極力車両の中央部に寄せた初代モデル以来のこだわりが効いている。
極端にいえば、「街中の交差点をひとつ曲がっただけで、スポーツカーらしいシャープな走りを味わうことができる」のだ。この感覚こそが歴代のロードスターに共通する大きな美点。ロードスターに乗ると、快哉を叫びたくのは、この走りがあればこそだ。トップを開け放って、風を感じながらのドライビングは、抜群に楽しい。気分がまさにリフレッシュする。
世の中の「スポーツカー」と呼ばれるクルマたちの中にあって、これほど手軽に、そして日常的に気持ちを昂らせてくれる存在はない。自動車……とくにスポーツカーを取り巻く環境は年々と厳しさを増している。クルマは実用的な道具であると同時に、趣味の対象でもある。ロードスターは、「スポーツカーの魅力とは、絶対的なスピード性能に由来するわけではない」という真実を雄弁に語る名作。このモデルの故郷に生まれ育ったボクたちは、ロードスターを誇りに思っていいはずである。