「負ける戦を何故やるのですか、司令長官、やめることは出来ないのですか」 「外交はもはや無力だ。皆逃げておる」 「そこを何とか」 「それを言うな。君の命は預かるぞ。軍人は国家の命令には従わねばならぬ。仮に俺が止めても次が選ばれ、戦争に突入しよう。まだしも俺の方が、戦争を早く終結させることが出来るかもしれぬ。君は親父が島根だから分らぬだろうが、結局、明治という国のゆがみが一気に噴き出たんだ。無理に戦争を起こして、長岡や会津に攻め入り、略奪の限りを尽くした。そうして出来上がった明治国家が暴走したんだ。人の苦しみがわからない、そういう国を作ったんだ。俺は蔣介石の気持ちがよくわかる。その明治国家の後始末を、長岡の俺とか、仙台の井上(成美)とか、米沢の南雲(忠一)がやらされるんだ。盛岡の米内さんはつぶれてしまったがな」 山本の眼に涙が光った。御前会議で開戦が決まったのだ。もはや火の玉となって真珠湾の攻撃に向かうしかない。 「長官、やらせていただきます」 山口は頭を下げた。

小説ですから実際にこのようなやり取りがあったかどうかも定かではありませんが、開戦に至るまでの苦悩は察するに余りあるものがあります。随分の昔に読んだ阿川弘之の「山本五十六」「米内光政」「井上成美」の三部作をもう一度読み返してみたいと強く思ったことでした。

また、これも「課題図書」外なのですが、お休み中に久しぶりに読み返した三島由紀夫の「午後の曳航」(新潮文庫)には、改めて強烈な衝撃を受けました。独創的なストーリーと絢爛豪華な文体は全く余人の追随を許すものではなく、本当の天才は、やはり三島だけだったのではないかと強く思います。

残暑厳しき折、皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2023年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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