シェアリングエコノミーの代表格として、日本国内でも「民泊」が普及しつつある。運営の始めやすさも普及を後押ししている一つの理由となっているが、民泊営業によって所得が発生したことにより、初めて確定申告の手続きが必要になったという人も多い。

この記事では、民泊運営で得た所得について、適切に確定申告をする方法や節税方法、申請に必要な基礎知識などについて解説する。

確定申告の基礎知識をおさらい

確定申告では、前年の1月1日から12月31日までの1年間が対象期間となる。2018年の確定申告の申告期限は2月16日から3月15日までで、その期間内に生じた全ての所得のほか、所得税や復興特別所得税の納付額を計算し、申告期限内に「確定申告書」を税務署に提出しなければならない。申告を忘れた場合には状況や金額によって、納付すべき額に5%~20%が加算されて請求されるので注意が必要だ。

通常、企業に勤めるサラリーマンで副業や兼業による所得がない場合、「年末調整」の書類を提出していれば確定申告を行う必要がない。一方で、副業や兼業により別の所得が発生しているケースでは、その所得額によって確定申告が必要になる場合と確定申告が必要にならない場合に分かれる。また企業に属さない個人が所得を得ている場合も、一定の金額を超えれば確定申告が必要だ。

具体的には、サラリーマンをしながら副業や兼業として民泊などを営み、企業からの給与所得以外に年間20万円以上の所得を得ているケースでは、確定申告が必要になる 。この20万円以上という基準については、民泊営業だけから生じる所得のみではなく、例えばブログ運営などによる所得額も加えて算出される。

一方、企業に属さないフリーランスや専業主婦などが個人の本業などとして民泊事業を営んでいる場合は、前年1年間の所得の合計額が38万円を超えている場合、確定申告が必要になる 。

民泊営業における「所得」とは何を指すか

ここまで、確定申告が必要になるケースと確定申告が必要にならないケースについて解説してきた。次に覚えておきたいことが「所得」の定義だ。確定申告における「所得」とは、収入から経費を差し引いた後の金額を指す。「所得」と「収入」を混同しないように注意する必要がある。

では民泊の場合、「収入」や「経費」には何が該当するのか。民泊における主な収入とは、AirbnbやHomeAwayなどの民泊仲介サイトを通じて得た売上となるのが一般的だ。この売上には通常、「宿泊料金」と「清掃料金」が含まれており、どちらも「収入」として計上される。

次に「経費」に該当する支出だが、これには民泊予約サイトの仲介手数料や賃貸物件の家賃、水道光熱費、清掃費、火災保険料、備品購入費、修繕費、アメニティなどの備品購入費、ティッシュや石けんなどの消耗品費など、さまざまな種類の費用が含まれる。

また、自分の持ち家で民泊を行っている場合は該当しないが、賃貸物件で始める際に貸し主に支払う敷金は、経費として計上できないので注意が必要だ。

まずこれらの収入と経費を整理した上で前年1年間の「所得」を計算することが、確定申告の準備を開始する上での第一歩となる。確定申告をする必要があるのかないのか、まず正しく把握することが重要だ。

例えば、実際に民泊運営で100万円の収入があっても、経費が90万円発生している場合は所得が10万円となる。この場合は本業として民泊を営業していたとしても、副業や兼業として民泊を営んでいたとしても、確定申告が必要な所得額には達さず、確定申告を行う必要はない。

民泊で得た所得は何という所得に該当するか

確定申告の準備を始める上で所得の計算が終わったら、次にその所得が何という所得に該当するか確定させる必要がある。

確定申告における所得税計算では、所得は10種類に分類される 。具体的には「利子所得」「配当所得」「不動産所得」「事業所得」「給与所得」「配当所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」「雑所得」に分かれる。このうち、民泊営業による所得で関係してくるのは「不動産所得」「雑所得」「事業所得」の3種類だ。

では民泊営業によって自ら得た所得が、これら「不動産所得」「雑所得」「事業所得」のどちらに該当するかだが、これについては民泊の営業形態や事業規模などによって異なってくる。ここからは民泊の営業形態や事業規模について実際に例を挙げながら、説明していきたい。

自宅で民泊営業をしている場合は「雑所得」に

民泊営業による取得が「雑所得」に該当するケースについて解説する。

これはAirbnbやHomeAwayなどの民泊仲介サイトなどを通じ、「自分が住んでいる自宅」の空き部屋を日本人旅行者や外国人旅行者に有料で貸し出しているケースが該当する。いわゆる「家主同居型民泊」「ホームステイ型民泊」「ふれあい型民泊」と呼ばれる民泊形態だ。そのほか全体から見れば少数だが、民泊仲介サイトを通さないで日本人旅行者や外国人旅行者を有料で受け入れている場合も、「雑所得」に該当する。

また、自宅を使って民泊営業をする場合には、民泊による所得を誰の所得として計上するかもポイントとなる。例えば夫婦で民泊運営を行っていて所得が生じている場合を考えてみる。

サラリーマンとして勤務先企業から給与を得ている夫の分として民泊運営による所得を計上した場合には、年間で20万円を超えると確定申告が必要になる。一方で、専業主婦をしており給与を得ていない妻の所得にする場合は、年間で38万円を超えなければ確定申告をする必要がない。

ちなみに「雑所得」の定義について国税庁は、10分類のうちの雑所得以外に該当しない所得、と説明している。一般的な例としては、公的年金や非営業用貸金の利子などのほか、文筆業を専業にしている人以外が受け取る原稿料、講演料などが挙げられている 。

自宅以外での民泊運営の場合は「不動産所得」に

民泊の運営形態は主に「家主同居型民泊」と「家主不在型民泊」に分かれる。前者の「家主同居型民泊」は前項で説明した通りだが、アパートやマンション、別荘などを含む一軒家などの物件を賃貸して民泊営業をする場合は、その所得は「不動産所得」になる。

現在の日本では、この「家主不在型民泊」が「家主同居型民泊」に比べて多いと言われている。家主不在型民泊とは、実際にその物件には家主(借り主)が住まずに、AirbnbやHomeAwayなどの民泊仲介サイトを使って宿泊者を募集し、物件に民泊させる運営形態のことを指す。

国税庁は「不動産所得」について、「土地や建物などの不動産の貸付け」「地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸付け」「船舶や航空機の貸付け」による取得が該当すると説明している 。

また「不動産所得」の場合には、事業の規模によって「事業所得」として確定申告で計上することもできる。次の項で具体的に説明する。

事業規模が大きければ「事業所得」にすることも

アパートやマンションなどの集合住宅や一軒家などを賃貸し、自宅以外で民泊運営を行って生じた所得については、基本的に「不動産所得」に該当することを説明してきた。一方で事業規模によっては、民泊による所得を「事業所得」として計上することも可能になってくる。

確定申告において、民泊運営に関係する所得を「事業所得」として計上した場合には、いくつかのメリットを受けることができる。

「事業所得」として民泊による所得を計上した場合のメリットの一つが、「青色申告特別控除」が適用されることだ。「青色申告特別控除」では、一定水準以上の帳簿を備えるなどの条件を満たすことで最高65万円が課税額から控除される 。

そのほか、配偶者や親族を含む家族が民泊運営に携わっている場合は、一定の条件の下でこれら家族に支払う給与を必要経費として算入することもできる。資産損失を必要経費として計上できるなどのメリットもある。

「不動産所得」を「事業所得」として計上する場合の規模について、国税庁は「5棟10室」という貸付け基準を設けている。アパートやマンションの場合は部屋数がおおむね10室以上であり、一軒家や別荘などの場合はおおむね5棟以上であれば、「事業」として営まれているものと判断されるとしている 。

いずれにしても、「不動産所得」を「事業所得」として計上できるかどうかについては、近くの税務署などに相談にいくことが賢明と言える。

確定申告を怠るとその後はどうなるか?

ここまで、民泊運営で所得が生じた場合の確定申告手続きについて解説してきた。収入と所得の違いや確定申告をしなければいけないケースとしなくてもよいケース、どの所得に該当させるかなど、確定申告をする際にはどれも必要な知識であると言える。

最後に確定申告を忘れた場合、その後はどうなるのか説明しておきたい。

もし前年1年間の所得について2月16日~3月15日の申告期間に確定申告を行わなかった場合、本来支払わなければならない税額に5~20%加算された額を支払う必要が出てくる。

期限を迎えた後、税務調査を受ける前に本人が自主的に申告を行った場合は5%、自主的に申告をせずに税務署に指摘された場合は、50万円までは15%、50万円を超えた場合は20%の割合で加算されることになる 。

いずれにせよ、確定申告することを忘れたことが分かった場合は、できる限り早めに税務署に申告手続きを行うことが必要となる。

毎年適切に確定申告の手続きを

2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、民泊はシェアリングエコノミーの代表格として、日本国内でもより一層普及が進んでいくものとみられる。複数物件を運営する民泊事業者も増えていくと予想され、民泊運営に伴う確定申告手続きも増えていくと見込まれる。正しい確定申告の知識を身に付け、毎年の適切な申告を続けていくことが重要だ。

文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)

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