激しいスポーツや肉体労働の後に「疲れた」と感じるのは、体を動かしてエネルギーが消費されたからであり、それは当然のように思えます。
では何時間も試験勉強したり、1日中パソコンの前で働いたりしたとき、身体を動かしたときと同様に強い疲労を感じるのはなぜでしょうか?
頭を使うと疲労を感じることは、私たちも経験上理解していますが、その科学的な理由についてはあまり明確ではありません。
今回フランスのピティエ・サルペトリエール病院(Pitié-Salpêtrière Hospital)に所属するマティアス・ペシグリオーネ氏ら研究チームは、頭を使った後に生じる精神的疲労の正体が、神経伝達物質「グルタミン酸」の過剰な蓄積にあると報告しました。
よく考えることでグルタミン酸が脳に蓄積され、これが私たちに休息するよう促すサインになっていたようです。
研究の詳細は、2022年8月11日付の科学誌『Current Biology』に掲載されました。
「頭を使うと精神的に疲れる」のはグルタミン酸の蓄積が原因だった
頭を使うことで生じる精神的な疲労の正体については、これまでさまざまな意見がありました。
有力な説の1つには、「精神的な疲労とは、より満足できる活動を行わせるために脳がつくり出した一種の錯覚である」というものがあります。
つまり精神的な疲労があっても機能自体には大きな影響はない、という考え方です。
しかしペシグリオーネ氏らの研究によって、この説は間違っていると判明しました。
脳には、「疲労に伴う物質」がしっかりと蓄積されており、脳の認知機能に悪影響を及ぼしていることが分かったのです。

この結果は、ペシグリオーネ氏らの次の実験によって明らかになりました。
実験には、40人のボランティアが参加。
そのうち24人(第1グループ)には脳を酷使する難しいタスクを、残りの16人(第2グループ)には前者よりもかなり簡単なタスクを行うよう指示しました。
そして両チームともタスクを6時間(10分休憩を2回含む)続け、研究チームはその間、参加者の脳内の変化を「磁気共鳴分光法(MRS):脳内代謝物の濃度を測定する方法」で調べました。
その結果、タスクを終えた第1グループの脳の前頭前皮質では、神経伝達物質「グルタミン酸」の濃度が高く、同時に疲労の指標となるさまざまな物質も検出されました。
一方、タスクを終えた第2グループでは、脳内のグルタミン酸濃度が低く、精神的な疲労も見られませんでした。
このことから、前頭前皮質のグルタミン酸濃度は、ハードな認知作業によって高まり、これが精神的疲労を生み出していると分かります。