心への影響:慢性的な暑さが「夏季うつ」を招く

持続的な暑さは、脳や精神の健康にも悪影響を及ぼすとされています。

米国成人の暑さとメンタルヘルス関連の救急外来受診との関連を調べた研究によれば、気温が高い日には、薬物使用障害、気分障害、不安障害、ストレス障害などのメンタルヘルス疾患で救急外来を受診する人が多いことがわかりました。

暑くなるとメンタルに不調をきたす人も多くなる。
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暑さがどのようにしてメンタルヘルスに影響しているのか、そのメカニズムはまだはっきりと解明されていません。

しかし現在のところ、ホルモンや神経系の乱れと、睡眠の質の低下が有力な原因と考えられています。

ホルモンバランスや神経系が乱れまくる

気温が上がると、体はストレス反応を示すことがあります。ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの分泌が増えると、人々はイライラしたり、不機嫌になりがちです。

副交感神経系は、体をリラックスさせたり、落ち着かせたりする役割を果たします。しかし、高温状態ではこの神経系がうまく機能しなくなるため、ストレスに対する耐性が低下します。

その結果、ストレスへの感受性が高まり、一般的なストレス反応が強くなる可能性があるのです。

猛暑は脳内のセロトニン濃度に大きな影響を与え、ストレスの増加、疲労、幸福感の低下など、感情や行動の変化をもたらす可能性があります。研究によればメンタルヘルスの持病がある人は、暑さによる影響を特に受けやすいそうです。

睡眠の質が低下すると脳の機能が混乱する

暑い夜は、睡眠の質も低下させ、生物学や健康のあらゆる側面に影響を及ぼすことが知られています。

慢性的な睡眠不足は、日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。

2022年にコペンハーゲン大学らがまとめた研究によれば、私たちは温暖化によって毎年平均44時間の睡眠時間をすでに失っており、今後数年でさらに多くの睡眠時間を失う可能性があると報告されています。

今後も暑い夏は続く可能性が高いことが予想されています。こうした中、私たちは何ができるのでしょうか?

暑さへの適応:「暑熱順化」で暑さに身体を慣れさせる

適切な水分補給は非常に大切です。無理をせず、適切にエアコンを使用することも、もちろん大事です。

しかし、エアコンの効いた環境で24時間365日生活するのは、現実的な解決方法ではありません。これからの夏も猛暑が続くと予想されている以上、わたしたちはある程度、暑い気候に慣れていかなければなりません

私たちの暑さへの耐性は固定されたものではありません。研究によれば7日〜10日程度の「暑熱順化」と呼ばれるプロセスで、体を暑さに慣れさせることができます

暑熱順化は、身体が生理学的に暑熱環境に適応できるようにすることです。暑い環境での運動耐性が向上し、熱による健康被害のリスクが減少します。

暑熱順化による体の変化。 
Credit: 鶴屋蛙芽 & ナゾロジー編集部

暑熱順化では、血漿量の増加による体温上昇の抑制や、発汗が早くなること、発汗量の増加などが起こります

暑熱順化により発汗量と発汗速度が高まると、長時間の活動でも体内の熱の貯蔵が最小限に抑えられ、体の冷却速度が高くなります。

暑熱順化は通常、暑くなる前の季節から時間をかけて慣れていくものです。すでに暑くなっているなら、早朝や日没後の暑さがやわらいだ時間に屋外を散歩するなど、短時間でも自然な気温の中で過ごすところからはじめましょう

ただし「猛暑は人を死に至らしめる危険なもの」であることは、常に心に留めておきましょう。そのうえで、少しでも暑さを楽しめるように体を慣らすようにするのです。

無理のない範囲で体を動かすことは、身体や心の健康に良い影響をもたらしますよ。

参考文献
Scorching Stress: The Hidden Mental Toll of Summer Heatwaves – Neuroscience News
元論文
Association Between Ambient Heat and Risk of Emergency Department Visits for Mental Health Among US Adults, 2010 to 2019 | Psychiatry and Behavioral Health | JAMA Psychiatry | JAMA Network