当方は生来、楽天主義だ。そうでなければ生きていけないこともあるが、人生、悲観的になって嘆いて生きていくには短い。

そんな当方だが、ウィーンで核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた準備委員会が先月31日から今月11日まで開催された。結果は最初から何も期待していなかった。悲観的だった。日本のメディア関係者は会議の動向を結構大きく報道していたが、現地のウィーンではオーストリア国営放送(ORF)は最初からNPT準備委の動きをほとんど報じなかったほどだ。

広島市の平和記念資料館で芳名帳に記帳するG7首脳たち(2023年5月19日、首相官邸公式サイトから)

国連の中満泉軍縮担当上級代表(事務次長)は会議初日の31日、「冷戦以来、これほど核兵器使用のリスクが高い時期はない」と指摘し、NPTを取り巻く国際情勢が厳しいと強調した。実際、準備委は最終日の今月11日、中国、ロシア、イランなどの反対があって議長総括さえ公式文書として残すことが出来ずに閉幕した。国際会議で議長総括が承認されないといったケースは非常にまれだ。

それでは、なぜNPT再検討会議準備委に大きな成果を期待できないかだ。考えられる点は、①NPTが核保有国の権利保持を保障する一方、非保有国にはさまざまな義務を強いている。すなわち、核保有国と非保有国間に不平等があることだ。②ロシアのプーチン大統領が昨年2月24日、ウクライナに軍侵攻し、戦闘が苦しくなると、「必要ならば大量破壊兵器(核兵器)を使用する」と警告するなど、核軍縮の雰囲気は核保有国にはまったくなかったこと。③イランが核開発を推進し、一部80%を超える濃縮ウランを製造するなど、第10番目の核保有国入りを目指しているなど、核軍縮とは正反対の動きが挙げられるだろう。

その中でも準備委に成果が期待できない最大の理由は①だ。メディアの中にはウクライナ戦争を最大理由に挙げているところもあるが、それはあくまでも追加されたハードルであって、最大理由はやはりNPT体制にあるというべきだろう。

ちなみに、核保有国は現在、9カ国だ。米ロ英仏中の国連安保常任理事国の5カ国に、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の4カ国が続く。先述したように、イランが10番目の核保有国入りを狙っている(「イランは10番目の核保有国目指すか」2022年6月14日参考)。

米ソ2大国冷戦時代が終焉した直後、ジョージ・W・ブッシュ大統領時代の米国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と述べ、大量破壊兵器の核兵器を「もはや価値のない武器」と言い切ったが、ロシア軍が昨年2月24日、ウクライナに侵攻した後、プーチン大統領が「必要ならば核兵器の使用を辞さない」と強調し、核兵器の先制攻撃を示唆したことから、核兵器がにわかに「使用可能な兵器」と見直されてきた。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は昨年の報告書で「核保有国で核兵器の意義が見直されてきている」と記述したが、その予測が一層現実味を帯びてきている。