地中海に面する中東のレバント地方で、約12万年前の「未知のヒト属」の化石が発見されました。

イスラエル・テルアビブ大学(Tel Aviv University)らの調査によると、その化石は、ネアンデルタールとホモ・サピエンス(現生人類)の両方に似ていながら、どちらにも当てはまらないという。

研究チームは、この新たなヒト属を、化石が発掘された遺跡にちなんで「ネシェル・ラムラ人(Nesher Ramla)」と名付けました。

研究は、6月25日付けで科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  1. ネアンデルタールでもホモ・サピエンスでもない「未知の人類」

ネアンデルタールでもホモ・サピエンスでもない「未知の人類」

化石は、イスラエル中部にあるネシェル・ラムラ遺跡の地下8メートルから出土しました。

内容は、頭蓋骨の上部と側面、大臼歯と歯根の大部分を含むほぼ完全な下アゴの骨断片です。

炭素年代測定から、骨は約14万〜12万年前のものと見られます。

研究チームが、骨をバーチャル上で復元し、ほかのヒト属の骨と比較したところ、興味深いことがわかりました。

下アゴの骨と歯はネアンデルタール人のそれに似ていましたが、頭頂部はホモ・サピエンスに近かったのです。

復元された頭蓋骨は、歯が大きくて、アゴが小さく、頭部の構造が異なるなど、ホモ・サピエンスとは大きく違っていました。

12万年前の化石から「未知の人類」が発見される
(画像=頭蓋骨の復元図 / Credit: Avi Levin and Ilan Theiler, Sackler Faculty of Medicine, Tel Aviv University(2021)、『ナゾロジー』より引用)

また、ネシェル・ラムラ人の骨は、これまで見つかったヒト属の骨の中で、ネアンデルタールにもホモ・サピエンスにも一致しない複数の化石と類似していました。

具体的には、タブーン洞窟(Tabun cave)で見つかった16万年前の化石、ズッティエ洞窟(Zuttiyeh Cave)で見つかった25万年前の化石、ケセム洞窟(Qesem cave)で見つかった40万年前の化石などです。

これらはすべてネシェル・ラムラ人の骨である可能性が高く、彼らは中期更新世末期(約47万〜12万年前)に生きていたと予想されます。

今回見つかった骨は、その晩期のものでしょう。

12万年前の化石から「未知の人類」が発見される
(画像=下アゴのスキャン画像 / Credit: Avi Levin and Ilan Theiler, Sackler Faculty of Medicine, Tel Aviv University(2021)、『ナゾロジー』より引用)

レバントは、アフリカ、地中海地方、アジアをつなぐ中継地であり、ネシェル・ラムラ人も各地に移動したと考えられます。

特に、西ヨーロッパに住んでいたネアンデルタールの集団がそうです。

ネアンデルタール人の最古の化石は西ヨーロッパで発見されているため、専門家は一般に「ネアンデルタール人は西ヨーロッパを起源とする」と考えていました。

その一方で、これらのネアンデルタール人のDNAには、過去の交配の痕跡が確認されており、大きな謎となっています。

研究主任のイスラエル・ハーシュコヴィッツ氏は「西ヨーロッパのネアンデルタール人は、レバントにいたネシェル・ラムラ人が地中海地方を通って移住した結果かもしれない」と推測しています。

12万年前の化石から「未知の人類」が発見される
(画像=レバント地方(赤) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

さらに研究チームは、ネシェル・ラムラ人が約20万年前に出現したホモ・サピエンスと約10万年の間、レバント地方で共生していたと考えています。

ハーシュコヴィッツ氏は「ネシェル・ラムラ人が高度な石器製造技術を持ち、現地のホモ・サピエンスと交流して、知識を伝えた可能性もある」と指摘します。

今回見つかった骨から、ネシェル・ラムラ人をより正確に特定できるDNAは検出されなかったものの、チームは「この未知の人類が、ホモ・サピエンスの出現と移住についての謎を解く鍵となるかもしれない」と期待を寄せています。

提供元・ナゾロジー

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