永久凍土の融解が世界に及ぼす危険

永久凍土の融解で100万年封印されてきた「未知のウイルス」が解き放たれる
(画像=北極の永久凍土に保管されている危険物 / Miner, K.R., D’Andrilli, J., Mackelprang, R. et al. Emergent biogeochemical risks from Arctic permafrost degradation. Nature Climate Change 11, 809-819 (2021)、『ナゾロジー』より引用)

昨今よく問題とされる薬剤耐性菌ですが、これは人類の活動がほとんどない時代の細菌からも発見されています。

つまり、薬剤耐性とは一部の菌がもともと持っている生来の特徴といえるのです。

シベリアの深い永久凍土層には多様な微生物が封印されていますが、これまで研究により、そのうちの100を超える微生物たちが抗生物質に耐性を持つことがわかっています。

永久凍土が溶けると、これらの細菌が融雪水と混ざり合って新しい抗生物質耐性菌を作り出し、世界へ広まっていく可能性があるのです。

また、産業革命の開始以来、人類が放出してきた汚染物質の多くも、実は永久凍土に堆積して封印されていたことがわかっています。

北極圏の大気中に送られ、時間の経過とともに永久凍土層に閉じ込められた物質の中には、現在では有害なために仕様が禁止されている殺虫剤DDT(ジクロロージフェニル-トリクロロエタン)など、危険な化学物質が含まれます。

これらは永久凍土の融解によって、再び大気中へ放出される可能性があります。

さらに氷が溶けることで水の流れが増加することになるため、汚染物質はより広範囲まで容易に拡散する恐れがあり、人間の利用する食物連鎖の中にも入ってくる可能性があるのです。

また資源採取や軍事的・科学的なプロジェクトによって出た放射性物質を含む汚染物質の廃棄場所としても、永久凍土は利用されてきたため、これが開放される恐れも高まっています。

しかし、これらのリスクはまだよくわかっておらず、ほとんど定量化されていないのが現状です。

研究の筆頭著者であるNASAジェット推進研究所のキンバリー・マイナー(Kimberley R. Miner)氏は、次のように述べ今回の研究の重要性について指摘しています。

「永久凍土層に封じられているのは、古代に生きていた巨大なナマケモノやマンモスと共に進化してきた微生物たちです。

これらが現在の生態系へ解き放たれた場合に、何が起こるかはまだわかりません。

永久凍土層の融解には、こうした大規模な地球変動による二次的、三次的影響を考慮する必要があります。

最大100万年もの間、閉じ込められてきた物質が解放される危険があるのです。

それがいつどこで発生するか正確にモデル化し、予測するにはまだ長い時間がかかります。

そのためにこうした研究は重要なのです」

地球温暖化は、これまで蓋をして閉じ込めてきたさまざまな問題や、人類がまだ出会っていない未知の驚異を地球上へ解き放つ恐れがあるのです。

永久凍土の融解で100万年封印されてきた「未知のウイルス」が解き放たれる
(画像=ギリシャ神話パンドラの匣。Pandora's box Charles - Edward Perugini(1839-1918) / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

温暖化は現代のパンドラの匣を開いてしまうのかもしれません。


参考文献

Permafrost thaw could release bacteria and viruses

元論文

Emergent biogeochemical risks from Arctic permafrost degradation


提供元・ナゾロジー

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