ナマケモノはあらゆる動作がゆったりしていて、穏やかでのんびりした生き物の代名詞になっています。

しかし、やるときはやる一面も持っているようです。

このほど、南米エクアドルの熱帯雨林で、襲撃してきたオセロットを撃退するナマケモノの激レア映像が撮影されました。

鋭利な爪による攻撃は普段の姿から想像できないほどスピーディーで、挙げ句の果てに、立ち去るオセロットを追いかける様子まで確認されています。

ナマケモノのようなゆったりした生物や、オセロットのような慎重な生物が戦闘する様子が撮影されるのは生物学者から見ても非常に珍しい資料だといいます。

研究の詳細は、2023年6月28日付で科学雑誌『Food Webs』に掲載されています。

昼間にナマケモノが撮影されること自体レア

今回の映像はエクアドルの熱帯雨林にある「ティプティーニ生物多様性ステーション(TBS)」の野生下に設置された監視カメラで撮影されています。

当時、1頭のフタユビナマケモノ(学名:Choloepus didactylus)は倒木で橋渡しされた沼地を訪れていました。

ナマケモノは生活のほとんどを樹上で過ごしますが、この地域では稀に、普段の食事では得られないミネラル分を求めて沼地を訪れることがあるという。

フタユビナマケモノ
Credit: ja.wikipedia

しかし研究者によると、この行動が記録されたことがすでに驚くべきことだといいます。

というのも、沼地を訪れたナマケモノの観察例は極端に少なく、2011年の調査では4000日につき一度の頻度でしか姿を見せないことが分かっているからです。

加えて、ナマケモノは普通、捕食者に見つかりにくい安全な夜間を選びます。

そのため、昼間に沼地にやってきたナマケモノの撮影自体がかなり貴重なのです。

ただやはり、この選択はナマケモノにとって凶と出ました。

密林の肉食獣であるオセロット(ヤマネコ、学名:Leopardus pardalis)が現れたのです。

ナマケモノvsオセロット、貴重な戦闘シーン!

ナマケモノvsオセロットの一戦は2022年8月29日の午後1時13分に始まります。

オセロットは中南米の熱帯雨林を原産とするヤマネコで、ヒョウのような身のこなしで、ヘビやカメ、カエルなどを常食とします。

より大型の哺乳類をターゲットにすることもあり、人との関わりとしては、芸術家のダリがペットとして飼っていたことで有名です。

オセロット
Credit: canva

さて映像では、ナマケモノが沼地に落ちたところをオセロットが上から襲いかかる形で先手を取ります。

万事休す… かと思いきや、ナマケモノは驚くほどの速度で鋭利な爪によるパンチを放ったのです。

このハンドスピードは予期していなかったのでしょうか、びっくりしたオセロットはジャンプしながら後方へ後退りします。

オセロットにパンチをお見舞いするナマケモノ
Credit: Camila Bastidas Domínguez – Predation attempt by an ocelot on a Linnaeu’s two-toed sloth at a mineral lick in Western Amazonia(youtube, 2023)

続いては、橋渡しされた木にぶら下がるナマケモノを上から仕留めようとするオセロットの場面です。

オセロットは隙を狙って何度も噛みつこうとしますが、ナマケモノは下から視線で牽制を続け、攻撃を許しません。

その後もナマケモノはオセロットが噛みつこうとするたびに、下から爪パンチでカウンターを打ち続けます。

そして最終的に、オセロットは勝機がないと見て、その場を立ち去ろうとしました。

ここでナマケモノは放っておいたらいいものを、なんと立ち去るオセロットの後を追いかけ回したのです。

映像の一部始終を確認したコロンビアのロス・アンデス大学(Universidad de los Andes)、米テキサス大学オースティン校(UT Austin)、エクアドルのサン・フランシスコ・デ・キト大学(USFQ)の研究チームは、これは明らかにナマケモノがオセロットを撃退した証拠だと結論しました。

「逃がさん!」とばかりに後を追うナマケモノ
Credit: Camila Bastidas Domínguez – Predation attempt by an ocelot on a Linnaeu’s two-toed sloth at a mineral lick in Western Amazonia(youtube, 2023)

研究者らは、偶然に撮影されたこの映像のあまりの貴重さに舌を巻いています。

そもそもナマケモノとオセロットはともに夜行性であり、昼間の野生下で見つけることは困難です。

その上、両者が昼間に遭遇してバトルを繰り広げ、挙句の果てにナマケモノが勝利を収めるなんて誰が想像できたでしょう?

研究者は、監視カメラの視野に限界があるため、ナマケモノがまったくの無傷で生還できたどうかは定かでないが、撮影の2日後に現場検証をしたところ、ナマケモノがケガをした痕跡は見当たらなかったという。

今回の映像は、ナマケモノとオセロットの知られざる習性について新たな洞察を与えてくれるものと期待されています。

ナマケモノは普段はかなりゆったり動いており戦いが得意なようには見えません。強い捕食者に狙われればなすすべなくやられてしまいそうですが、実際はかなりケンカに強いのかもしれません。

撮影された映像の全体はこちらからご覧いただけます。

参考文献
Rare Footage Captures The Moment a Predator Attacked a Sloth … And Lost
Sloth Escapes Ocelot’s Attack in the Wild [Watch]; Endangered Wild Cat’s Breeding Program To Begin in Kingsville
元論文
Sloths strike back: Predation attempt by an ocelot (Leopardus pardalis) on a Linnaeus’s two-toed sloth (Choloepus didactylus) at a mineral lick in Western Amazonia, Ecuador