動機づけの種類によって高まる認知機能が違う
実験の結果、「強盗即実行」グループは、「強盗計画中」グループと比較して、1日目のPCゲームでは高い価値のある絵画が出やすい扉を適切に選んで、「計画中」のグループよりも約230ドル高い報酬を獲得しました。
この結果から「強盗即実行」グループは、高額と低額の絵画の出現率をより効率的に学習・記憶し、最適な判断を行えたことが分かります。
一方で「強盗計画中」グループは、「強盗即実行」グループと比較して、2日目の記憶力テストで、より多くの絵画と価値、関連づいた扉の色を正確に覚えていました。
これらの結果は、強盗の実行中を意識した場合、より高価な絵画を選ぶための分析能力が向上する一方、将来のために強盗計画中だと意識した場合には、より多くの絵画と価値を正確に長く記憶できることを示しています。
これはそれぞれの事前の動機づけによって、学習・記憶形成のための認知能力がそれぞれ異なる方向へ変化した可能性を示唆しています。
「緊急性」を取り除き、「好奇心」を抱かせる
今回の研究結果は、学習・記憶前の微妙な動機付けの違いで、認知機能が変化する可能性を示唆しました。
論文では「強盗計画中」の動機づけでは「好奇心」を、「強盗実行中」の動機づけでは「緊急性」を感じることで今回の結果が生じたのではと考察されています。
今回の研究の面白い点は、無意識の内に動機づけに合った認知処理が促進された点です。
どちらのグループも高額の絵画を見つめて高い報酬を受け取るといゲームの目的は一致していました。
しかし「強盗実行中」グループは、「強盗実行中」という動機付けが、より高額な絵画の出現に強い注意力をもたらし、高額な絵画の出やすい扉がどれか正確に分析できるようになっていました。
課題は同じだったため「強盗計画中」グループも、同様にただ高額な絵画のみに注意を払い、高い絵画が出やすい最適なドアを選択できたはずです。
しかし無意識のうちに彼らは「強盗計画中」の動機づけに合うよう、絵画の種類と価値、そしてどの扉にそれが収められているかの長期的な記憶に認知機能のリソースが割れていたと考えられます。
そのため彼らは報酬は低下してしまいましたが、引き換えに翌日の記憶テストでは優れた成績を収めることができたのです。
今回の結果で忘れてはいけない点は、この動機付けによる好奇心や緊急性の高さがもたらした認知能力の向上の違いには優劣がないことです。
これは状況に応じて、どちらも有利に働く能力です。
そのため自分自身の状況に応じて最適なモードを考え、戦略的に利用することが大事なのです。
研究結果を踏まえて、教育現場への応用を考えるなら以下のようなアプローチがあるでしょう。
もし内容を長期的な記憶に留め、重要性を考え欲しい場合には「好奇心」を抱かせるアプローチが必要になってくるでしょう。
一方で、注意深い分析能力を期待したい場合には、時間の締め切りを設けるなど「緊急性」を強調するとより効果的になるかもしれません。
参考文献
Stealing a Brain Hack: Exploration vs Urgency Shapes Memory and Learning
元論文
Instructed motivational states bias reinforcement learning and memory formation