「新しい江戸前の幸」として、東京湾奥部の主要漁獲物となってきた外来種・ホンビノスガイ。しかしここ数年、漁獲量が激減しています。
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江戸前の新名物「ホンビノスガイ」
東京湾奥部、いわゆる「江戸前の海」で現在主要な漁獲物となっているホンビノスガイ。白ハマグリと呼ばれ、関東の市場で見ない日はありません。
アサリやハマグリ、バカガイなどの漁獲が激減する中、今世紀初頭から水揚げが上がり始め、あらたな海の幸として注目されてきました。しかしそんなホンビノスガイがここ数年、かなりの勢いで漁獲量減少が続いています。
ホンビノスガイの主要漁獲海域である東京湾奥の三番瀬では、ピークとなった2017年には1676tの水揚げがありました。しかし昨年2022年度の同海域での水揚げはたったの81t。5年でなんと21分の1にまで減少した形です。
なお、周辺海域での水揚げも三番瀬ほどではないものの減少しています。
外来種だけど重要魚業種
ホンビノスガイは、我が国では1998年に発見された新顔の二枚貝です。原産地は北米の大西洋沿岸で、日本へはバラスト水(貨物船やコンテナ船の錘として汲み込まれる海水)に入り込んで移入したと見られる外来生物です。
彼らは東京湾奥を中心に定着し、短期間で生息数を増やしました。殻の大きさは10cmを超え、肉質はやや硬いものの旨味が強く美味であることから、食材としての人気が出るのに時間はかかりませんでした。
それ以来、安価なハマグリの代用品として流通してきましたが、水揚げ減少の影響を受けここ数年は価格が高騰し、本ハマグリとさほど変わらない価格になることもあります。
水揚げ減少の理由
ホンビノスガイの水揚げ減少については、様々な理由が推測されています。ただし、そもそも広い水域ではない三番瀬で、短い期間にあまりに獲りすぎたことが影響しているのはまず間違いないでしょう。
ホンビノスガイは非常に長寿な貝であることがわかっており、その分成長には時間がかかるものとみられます。現在の千葉県における「大まき」という大きな鋤簾かごでの漁では小さい貝も根こそぎ採ってしまうため、資源の再生産が間に合わなくなってしまっているのでしょう。
水温上昇も一因か
そのほか、東京湾の海水温上昇も少なからず影響していると見られます。ホンビノスガイの原産地の水温はさほど高くなく、もともと高水温に弱い貝だという説があるのです。
もちろん、ここ数年秋になると発生する大規模な貧酸素水塊や青潮も、ホンビノスガイが減った原因のひとつかもしれません。
いずれにしても、しぶとくやっかいなイメージのある外来生物であっても、環境破壊や乱獲のせいでいなくなるのだという当たり前のことを、ホンビノスガイは改めて我々日本人につきつけました。
大事なのは根本的な対策、つまり元々採れるはずのハマグリやアサリなどといった在来生物資源が生きていけるための環境を復活させ、維持させていくことではないでしょうか。「アサリやハマグリが獲れなくなったから外来種を獲ろう」というのは虫が良すぎる話だったと言えるのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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