LPガスの大幅値上げのスクープ

原油供給削減、原油値上がりに焦点が当たっているおり、官房の方から「原油に加え、プロパンガス(LPガス)も値上がりするようだ」との情報を耳打ちされました。記者クラブのどこの社も気が付いていないようでした。特ダネ、スクープは断片的な情報を発端として、取材を重ね、全容を把握していくというプロセスが多い。いくつかの箇所に当たり、いよいよ担当の通産官僚の最終的な確認をとる段階になりました。

官僚は当時、朝から晩まで緊急会議の連続でしたから、記者が接触するのは容易ではありません。石油計画課長がこの問題の担当者であり、省内のどこの部屋で会議に出席しているかを聞きだし、会議室を訪ずれ、課長宛てにメモを入れてもらいました。他社に抜かれたくないので急を要したのです。

親しくなっていた方なので、私のような若造記者の求めに応じ、席を外し、ドアの外まで来てくれました。私のつかんだ情報をぶつけると、立ち話で「その通りだ」といい、詳しい話を聞かせてくれました。

73年10月28日の読売新聞朝刊1面トップ記事で、「LPガス3倍に値上げ、石油メジャーのガルフが決定」という見出しが躍り、「出光、共石、丸善の3社に通告。他のメジャーの追随が必至。家庭燃料、タクシーに衝撃」などという記事内容になりました。他の新聞社が後追いをしたのは言うまでもありません。

「スクープといっても、いずれ発表されるものだろう」という指摘がよく聞かれます。時間差だけのスクープはスクープとはいえない。そういうケースもあるでしょう。この場合は、オイルショックの最中で、原油やLPガスがどの程度に上がるか、いつ上がるかを早期にキャッチすることに大きな情報価値があります。政府は物価対策、資源の供給計画、企業は生産計画、価格対策を早期にとらねばならないからです。つまり「時間はカネなり」なのです。

(つづく)

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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