「最近相続税が変わったようですね」−−。行政書士である筆者は、日々の相談業務でこう問われることがよくある。

改正前後には、テレビや新聞等で話題になったためか、「変わった」、「改正された」ということは知っていて、その内容まである程度知っている人も多かった。しかし、改正してしばらく経つと、改正内容までは詳しく理解していない人が多いようだ。おそらく「相続」が日常茶飯事の出来事ではないため、変わったという記憶はあっても、その内容までは覚えていないのだろう。

改正された相続税とは?

行政書士の仕事に「遺言書作成業務」がある。依頼者から遺言書の作成を依頼され、綿密に聞き取りを行って、依頼の意に即した遺言書を作成する仕事である。その際に、相続税について聞かれるケースも少なくない。税金に関することなので本来は税理士の領域だが、相続税対策、いわゆる節税については、「遺言書」の内容にもかかわるため、きちんと調べ、答えている。

最近では2015年(平成27年)1月に「相続税法」が改正され、「基礎控除額」が引き下げられた。この「基礎控除額」であるが、遺産のうち「相続税」がかからない金額のことであり、この金額を超えると「相続税」を支払わなければならなくなる。つまり、「相続税」を支払うか支払わないかのボーダーラインだと考えればいい。

改正前の「基礎控除額」は、「5000万円+法定相続人の数×1000万円」であったが、今回の改正によって「3000万円+法定相続人の数×600万円」にまでハードルが下がったのである。

例えば、夫が亡くなり法定相続人が妻と子ども2人だとする。改正前の基礎控除額は、「5000万円+3(人)×1000万円=8000万円」だったが、改正後は「3000万円+3(人)×600万円=4800万円」となり、一気に相続税を払う対象が増えることになる。

改正によって、以前は相続税とは無関係だった人も、課税される可能性が出てきたのである。

今すぐにできる「相続税」対策とは?

相続税対策について、相談者から質問があった際にまずお勧めしているのは、「生前贈与」である。

先程の説明でおわかりのように、「基礎控除額」というハードルが下げられたのだから、その下を行く「遺産」の額にすればいいのである。つまり、被相続人となる人の財産を生きている間に、できるだけ減らすのである。その最も有効な方法が、「生前贈与」というわけだ。贈与とは財産、具体的には預貯金を相続人に移動させること。

その際注意することは、「贈与税」の問題である。贈与も相続と同じで「基礎控除」が設けてあり、年間110万円までは税金がかからない。裏を返せば110万円をオーバーしてしまえば、「贈与税」が課税されるので、この点は十分に注意したいところだ。

例えば、3人の子どもに「基礎控除額」ぎりぎりの110万円を5年間、それぞれに贈与した場合、その総額は「110×3×5=1650万円」となり、かなりの額の預貯金(遺産)を減らすことができる。

しかし、遺産の内訳で不動産(土地、建物)が主で、預貯金が少ない場合には、この方法は使いにくいかもしれない。その場合は、実際に使っていない不動産を早めに売却し、現金に換えた上で、「生前贈与」を行うという方法も考えられる。

ただ不動産を売却した場合、「譲渡所得税」という税が課税される場合がある。不動産を現金化して「生前贈与」するほうがいいか、そのまま売らずに子どもなどに相続させたほうがいいかは、実際に課税される「譲渡所得税」を計算した上で、判断したほうがいいだろう。

この「生前贈与」にはいくつか注意点がある。

まず贈与する側とされる側の意思疎通の問題である。例えば、親が子どもの預金口座を子どもに知らせることなく作り、その口座に生前贈与のつもりで預金していても、税務署ではそれを子どもの財産ではなく親の財産の一部だとみなす場合がある。せっかくの親の行為が無駄になってしまうのである。

そうならないために、行政書士の立場から書面で残す方法をアドバイスしたい。具体的には、「贈与契約書」の作成である。書式は自由であるが、できれば専門家(行政書士)に、どのような書式が良いかを相談されたほうがいいと思う。親子の間で「契約書」と聞くと、いかにも無味乾燥で抵抗感があるかもしれないが、せっかくの親の厚意が無駄になってしまわないためだ。

さらに子ども名義の「預金通帳」も必ず子ども自身が管理して、親から子どもへきちんとお金が移動しているという、客観的な事実を作っておくことが重要である。また贈与の際にも、できれば銀行の「振込依頼書」を使い、親の意思で子どもに贈与しているという明確な証拠を残しておけば安心である。

相続は頻繁に起こる問題ではないだけに、「相続税の改正」と言われてもなかなかピンと来ない人がほとんどだと思う。しかし今回の改正はかなり画期的なことであり、今まで相続税とは無縁だった人にも直接関わってくる問題でもある。「生前贈与」の制度を上手に利用してもらいたい。

文・井上通夫(行政書士)/ZUU online

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